<発表者>
アディッシュ株式会社
オンラインコミュニティ事業部ポリシーアーキテクト兼 社長室 室長
藤澤 寿文
ソーシャルメディアに関して、多くの企業、特にBtoC事業者はソーシャルメディア上のリスク、いわゆる「ソーシャルリスク」に対して懸念してらっしゃるのではないでしょうか。
ソーシャルリスクに対してごく最近で世間の関心を大きく引き寄せたのは、何と言っても食品に対する異物混入の件でしょう。2014年12月のカップ焼きそばの異物混入事案では、消費者が異物混入商品の画像をソーシャルメディア上に公開しただけでなく、お客様相談室に問い合わせした際の企業の対応についても公開したことで多くの人の目に留まり、大きな騒動になりました。
事態を収拾するためにメーカーは「自主回収」「生産自粛」「全商品販売中止」という厳しい処置を行いました。食品の異物混入における対応のデファクトスタンダードを変えたとも言われるほどインパクトのある対処でした。
企業はSNSに関して、このような種類の騒動にだけ気を付けていればいいのでしょうか?その疑問に答える前に、SNSを発端とした騒動の歴史を振り返りたいと思います。
企業がいわゆる「炎上」に巻き込まれた事例の先駆けとも言える事例は2005年8月の出来事です。東京ビッグサイトにて行われていたある展示会の会場界隈に出店していた移動販売店のアルバイト店員が、来場客を嘲笑する記事を自身のブログに掲載したことで非難が集中、雇用主であるホットドック販売店の本社に抗議が殺到するという事態に発展しました。当時は「炎上」ではなく「祭り」と呼ばれていました。
2006年12月には、カラオケ店に来店した女性タレントの悪口をアルバイト店員がmixi日記に投稿したところ、カラオケ店に抗議が寄せられ対応に追われました。
また2007年12月には、牛丼チェーン店にて、アルバイト店員が常軌を逸したボリュームの豚丼を作る様子をYouTubeに投稿、雇用主である企業がアルバイト店員に対して損害賠償を請求することも視野に入れている旨の発表を行いました。
この時期には、ソーシャルメディアとしてmixiが主に活用されていました。
2011年ごろより、ソーシャルメディアとしてTwitterとFacebookが本格的に台頭してきます。この頃からいわゆる「炎上」という単語が定着し、ある種のムーブメントが到来します。
2011年1月、有名ホテルのレストラン従業員が、有名人の来店を実名入りでTwitter上に暴露しました。マスメディアの報道もあり騒動となる一方、当該ホテルの責任問題にまで発展しました。
2011年3月、レンタルビデオショップの公式Twitterアカウントが、震災報道一色のテレビを揶揄するような投稿をし、不謹慎だという集中抗議を受けました。
2011年5月、スポーツメーカー社員が直営店に来店したプロスポーツ選手の実名を挙げてTwitterで罵倒、当該スポーツメーカーは公式サイトで謝罪しました。
2011年は怒涛の炎上ラッシュで、他にも何件か大きな炎上事案がありました。そしてこの頃から、企業による公式サイトでの謝罪も珍しくなくなってきました。インターネット上で従業員が不用意に投稿した内容が社会問題に発展するという図式も出来上がってしまいました。
2011年の特徴は、Twitterを起点とした炎上事案が多くなった点です。弊社独自調べでも、2011年1月以降の企業関連炎上事案は8割程度Twitterを起点とし、拡散する際にはほぼ必ずTwitterを経由しています。たった2年でインターネットの情報伝達経路が全く変わってしまったのです。
2013年に入ると新たな動きが出てきました。夏、コンビニエンスストアのアイスクリーム用ショーケースに寝そべった写真がTwitterに投稿されて、それが大いに批判を受けます。それに端を発した「バイトテロ」と言われる一連の騒動がありました。
また、飲食店チェーンなどを訪れた客が、テーブルに備え付けられた醤油差しを鼻に差し入れたり、全裸で入店したりした画像がTwitterにて投稿されるなど、営業妨害にもなるような投稿も後を絶ちませんでした。
2011年のような行為については従業員教育の徹底により防げる可能性はありましたが、2013年には従業員のみならず消費者も含めて迷惑行為が出回ったため、企業のガバナンスでは対処しきれないリスクが顕在化しました。
冒頭に述べた通り、2014年12月、カップ焼きそばに虫が混入したとの投稿が出回り、全工場での生産を中止するという事案が発生しました。さらに、ハンバーガーショップチェーンにて複数の異物混入が発覚するなどで謝罪会見が行われました。「バイトテロ」以降は画像を利用しての問題投稿が目立ち、この異物混入騒動においても、画像が様々なサイトに拡散するなど、多数の人の目に留まっているのが実情です。そして、1つの投稿が大きな損害に繋がる危険を改めて多くの企業が認識しました。
インターネット社会が進んでいる昨今、リスクのある投稿はインターネット上に常に潜んでいます。いつ騒動に発展するかも分かりません。このような中、企業のソーシャルリスク対策はどうすべきでしょうか。
リスク投稿を防止するためソーシャルメディアの利用を禁止するのは事実上不可能でしょう。自社の従業員ですらコントロールできない状況において、消費者の発言をコントロールできるはずはありません。インターネットとは、ソーシャルメディアとは、そのようなものだと理解することが必要です。
一方、リスクの高い投稿をした「犯人」を捜すという視点で従業員の動向を監視すると、企業からは優秀な従業員を失いかねません。退職後に元従業員がインターネット上にそのことを投稿するリスクもあります。「××社は従業員の動向を監視する」などといった投稿がインターネット上に流れれば「ブラック企業」のレッテルを貼られるのは至極当然のことです。
大事なことは、顧客と従業員を大切にし、改善に努め、異変に迅速に気付き、不正には毅然と対処するという、結局は当たり前のことに帰結するのです。インターネット上のリスクにとらわれすぎることなく、インターネットに溢れる様々な声を傾聴し、恒久的改善に繋げていくという視点が必要です。