企業が顧客との信頼関係を築く手段として、コミュニティ運営を選択する企業が増えています。とりわけファンとの長期的な関係性を築くための「共創型コミュニティ」への注目が高まっていますが、その一方で、運営者が口を揃えて挙げる懸念が“誹謗中傷”や“炎上”といったトラブルリスクです。
投稿が増えるほど、ユーザー同士の感情的な衝突や、企業への期待・不満が爆発する可能性も高まり、場のコントロールが困難になります。だからこそ、コミュニティの設計段階から「予防」と「抑止」の観点を盛り込み、リスクを未然に回避する運営体制が求められます。
この記事では、企業コミュニティを立ち上げる/運営する担当者が、炎上・誹謗中傷といったリスクをどう防ぎ、安心・安全な場を育てていけるか、そのための具体的なステップと体制構築のポイントを解説します。
オンラインコミュニティはSNSと比較してユーザー間の距離が近く、濃い関係性が育まれやすいという特性があります。これは熱量の高いユーザーによる活発な交流を生み出す一方で、次のようなリスクも内包しています。
誹謗中傷や炎上を防ぐ第一歩は、ユーザーが「どのように振る舞うべきか」を理解できる環境を整えることです。単なる禁止事項の羅列ではなく、ポジティブな行動を促す“行動指針”として規約を設計することで、場の空気感を整える効果があります。
よくある誤解と曖昧表現のNG例
×「不適切な投稿は禁止です」
✓「他者を不快にさせる可能性のある個人攻撃、差別的表現、過度な批判は禁止します」
"ポリシー文"と"ユーザー向け要約"の2段構成に
企業の法務部門が作成する文書は難解な表現になりがちです。実際のコミュニティ参加者には、平易な言葉と具体例を使った「読みやすい要約版」も併記することで、規約の理解・遵守が進みます。
チェックリスト形式で規約の設計品質を見直す
・コミュニティの目的や方針が明示されているか?
・曖昧な表現に依存していないか?
・実際のユーザー行動と紐づけた記述になっているか?
・規約が「禁止」だけでなく「推奨」も含んでいるか?
コミュニティの健全性を保つ上で欠かせないのがモデレーション体制です。しかし、すべての投稿を逐一チェックするのは現実的ではありません。そこで重要になるのが、「共感型」かつ「重点型」の運用設計です。
投稿全件を監視しなくても「健全性」は保てる
リスクが高まりやすい投稿だけにリソースを集中させることで、効率的かつ的確なモデレーションが可能になります。具体的には、以下のような投稿を優先的にチェック対象とします。
これらを中心に監視対象を絞り、AIツールによるフィルタリングと人の判断を組み合わせて、効率と品質のバランスを取ります。
通報導線の工夫:「目立つ」「押しやすい」「嫌悪感を与えない」
通報ボタンの有無だけでなく、その位置・文言・デザインによって、ユーザーの心理的ハードルが大きく変わります。
以下は、実際によくある通報導線の例です。
良い例
・投稿の右上に「…」ボタン → 押すと「通報する」オプション
・通報のラベルを「問題を報告」など柔らかい言葉にする
・送信後に「ご報告ありがとうございました」などのフィードバック表示
モデレーション業務は、すべてを自社で担うのではなく、専門会社に委託することで24時間体制の監視や専門性の高い判断が可能になります。依頼されることが多い主な業務には以下があります:
一次対応:AIと人による投稿監視
AIの役割:
・投稿内のNGワード、ネガティブ表現、スラングなどの検出
・過去データに基づいた“炎上兆候”のスコアリング
・短期間での投稿急増/反応数急増スレッドの自動検知
人の役割:
・AIが検出した投稿の文脈判断(冗談なのか悪意なのか等)
・微妙なトーンやニュアンスを汲んだ対応方針の決定
・利用規約に照らしたグレーゾーンの投稿の扱い判断
レポーティング(週次・月次)
・通報数、対応件数、削除件数の定量データ
・“よくある違反内容”の傾向分析や対応履歴の可視化
・改善提案(例:ガイドラインの見直し提案など)
レポーティングで可視化される内容と、そこから導ける改善アクション
定期的なレポーティングを行うことで、場の健全性やリスク兆候を数値で把握できます。レポート内容を正しく読み解くことで、次のアクションが明確になり、運営品質の向上にもつながります。
項目 |
内容例 |
通報件数(週次/月次) |
通報が多い時間帯・曜日・スレッド傾向 |
対応ステータス別件数 |
「非対応/注意喚起/削除/個別対応」などの分布 |
ガイドライン違反カテゴリ内訳 |
誹謗中傷・スパム・宣伝・荒らしなど |
問題投稿の初動検知時間 |
問題検出から対応までの平均時間(SLA的観点) |
再発率(同一ユーザー・同一テーマ) |
過去に注意されたユーザーの再発率 |
レポートから読み取れる改善ポイント(例)
・通報件数が特定曜日や夜間に偏っている → その時間帯にガイドライン投稿を定期化/夜間だけ委託強化を検討
・“境界事例”(削除対象か迷う投稿)の増加 → ガイドライン文言の明確化 or 具体例の追加
・同一ユーザーによる軽度違反の繰り返し → 通報だけでなく「個別メッセージによるマナー案内」など早期介入へ
・“注意喚起”にとどまった対応が増加 → モデレーター間の判断基準を再統一(トーンガイドなど作成)
企業コミュニティが持続的に機能するためには、「自由な発言を促す場づくり」と「ブランドイメージを守る体制」を二項対立で捉えるのではなく、“共存”させる設計が必要です。
・規約=行動のガイドライン
・モデレーション=健全な空気を守る共創者
そして何より、「安心して参加できる」という空気をどう演出するかが鍵になります。これは単に機能を設けるだけでなく、日々の運営姿勢や対応の一貫性によって育まれるものです。
アディッシュは、10年以上にわたりオンラインコミュニティやSNSのモニタリングを通じて、企業のブランド価値を守る支援をしてきました。
誹謗中傷や炎上への備え、ルール設計、投稿監視、ユーザー対応方針の整理など、数多くの課題に対応した実績とノウハウがあります。
・「そもそも規約をどう作ればいいかわからない」
・「投稿の監視が追いつかず、判断に困っている」
・「自社で体制をつくるのが難しい」
このようなお悩みがある方は、ぜひお気軽にご相談ください。