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正規ブランドの売上を脅かす模倣品──ECでの拡散を防ぐパトロール対策ガイド

はじめに|なぜ今、模倣品対策が企業に求められているのか

近年、ECサイトやフリマアプリ上で模倣品(偽ブランド品)が氾濫し、企業のブランド信頼や売上に深刻な影響を与えています。

しかし、多くの企業がその被害の実態を正確に把握できていないのが現状です。特許庁の調査(2020年度)では、模倣品の「被害の有無を把握していない」と回答した企業が32.5%「被害金額を把握できていない」企業が87.2%にのぼりました。対策が後手に回りやすい実態がうかがえます。
出典:特許庁「2020年度(令和2年度)模倣被害実態調査

粗悪な模倣品によってユーザーからの信頼を損なえば、長年築き上げたブランド価値が揺らぎ、顧客離れや売上低下につながるリスクが高まります。さらに、自動車部品の模倣品のように、消費者の安全を脅かす深刻なケースも報告されており、模倣品問題は単なる知財リスクにとどまらず、企業にとって無視できない経営課題となっています。

本記事では、ECにおける模倣品被害の現状と背景を踏まえ、早期発見の重要性やパトロール設計のポイント、削除依頼の具体的な手順、さらに対策の効果測定と改善サイクルまで、実例やデータを交えて実務的に解説します。

実務に役立つ最新データや具体的な対応事例については、下記のホワイトペーパーでも詳しく解説しています。

1. ECにおける模倣品被害の現状と背景

まず、模倣品・海賊版商品の世界的な流通規模を押さえておきましょう。
OECDとEU知的財産庁(EUIPO)が発表した2025年版報告書によると、2021年時点における模倣品・海賊版の流通規模は約4,670億ドルに達し、これは世界貿易全体の約2.3%に相当します。依然として高水準で推移しており、消費者の安全や企業の知的財産が深刻なリスクにさらされていると警鐘が鳴らされています。日本企業も例外ではなく、海外市場での模倣品拡散や国内流通を通じて、直接的・間接的な被害を受ける可能性があります。
出典:OECD・EUIPO(2025)『Mapping the Global Trade in Fakes 2025

EC市場の拡大が被害を加速させる

特に、EC市場の拡大が模倣品の流通を加速させています。2021年以降、フリマアプリや越境ECの普及により、個人間でも模倣品の売買が容易に行われるようになり、被害の裾野は広がっています。

例えば、アニメやゲームといった日本の人気コンテンツは、海外でも高い評価を得ていますが、その一方で、非公式のキャラクターグッズやデザインを無断使用した商品の出品が、国内外のECサイトで後を絶ちません。最近では、メタバース空間のバーチャルアイテムや、生成AIによるコンテンツの模倣など、新たな手口も登場し、権利侵害のハードルはますます下がっています。

売上損失から安全性を脅かすリスクまで

こうした状況を放置すれば、正規品の販売機会が奪われるだけでなく、ブランドの希少性や信頼性が損なわれる恐れがあります。

また、金銭的な被害だけでなく、消費者の安全を脅かす可能性があることも無視できません。例えば日産自動車は、公式サイト上で、ブレーキパッドやエアバッグなどの模倣部品が世界で流通していると警告しています。このような重要部品の品質が不十分であれば、製品の機能が損なわれ、最悪の場合には安全性に深刻な影響を及ぼす可能性があります。

こうした事例からも分かるように、模倣品問題は単なる売上損失にとどまらず、企業の社会的信用や顧客の安全さえも脅かす重大なリスクであるといえるでしょう。
参照:日産自動車 車検|純正部品について ― ニセモノ/模倣品にご注意ください

2. なぜ模倣品は「早期発見」が重要なのか

模倣品対策においては、「スピードが命」と言われるように、早期発見と迅速な対応が極めて重要です。その理由を3つの観点から整理します。

①ブランド価値と顧客の信頼を守る

模倣品が市場に出回り続けると、ブランドの評判や顧客からの信頼を損なうリスクがあります。
たとえば、一般消費者が粗悪な模倣品を正規品と誤認して購入した場合、製品への不満が本来のブランドに対する失望へとつながるおそれがあります。こうした誤解が広がれば、SNSなどを通じたネガティブなクチコミが波及し、企業のイメージ低下にも直結しかねません。

実際、特許庁の「2020年度 模倣品被害実態調査」では、模倣品による主なリスクとして「ブランドイメージの低下」「顧客からの信頼喪失」が多数の企業から挙げられており、売上への影響と並んで、ブランドの信用に対する毀損が深刻な課題と認識されていることが示されています。
模倣品をいち早く検知し、適切に対応する体制は、ブランド価値と顧客との信頼関係を守るための第一歩です。
出典:特許庁『令和2年度 模倣品被害実態調査 報告書』

② 販売機会の損失を防ぐ

模倣品が出回ることで、本来得られたはずの正規販売の機会が失われます。たとえば、人気商品の発売直後に模倣品が流通すれば、価格の安さから消費者が模倣品に流れてしまい、初動の販売機会を逃す可能性があります。

さらに、模倣品の放置は「どこでも入手できる商品」という印象を与え、ブランドの希少性や競争優位性が損なわれる要因にもなります。模倣品の流通期間を短く抑えることは、売上機会の確保と市場での優位性維持につながります。

③ 被害の拡大と二次リスクを食い止める

対策が遅れると、模倣業者の間で「このブランドは対策が甘い」という認識が広がり、新たな模倣品が次々と生み出される悪循環に陥ります。
また、長期間放置された模倣品は、後の法的措置における被害額を増大させ、訴訟や社内対応のコストも膨らみます。模倣品を発見次第、プラットフォームへの削除依頼や出品者への警告を迅速に行うことで、被害の連鎖を断ち切り、企業と消費者の双方をリスクから守ることができるのです。

しかし、多くの企業では模倣品対策の専門部署がないのが実情です。だからこそ、平時からのパトロール体制と、発見時の対応フローを明確に定めておくことが極めて重要になります。

3. 実践的なパトロール設計と検索のコツ

模倣品を効率的に発見するには、「定期的な巡回(パトロール)」と「精度の高い検索ロジック」の両立が鍵となります。

①パトロールの頻度・タイミング

理想は24時間365日の監視ですが、現実的にはリソースが限られます。重要なのは、定期的かつ継続的に実施することです。
例えば、「毎営業日の午前中に前日の新規出品をチェックする」といったルールを設けたり、最低でも週に数回は主要なプラットフォームを巡回したりと、自社の状況に合わせたスケジュールを設計しましょう。新商品の発売直後やセール期間中など、模倣品が増えやすいタイミングで監視を強化するのも効果的です。

② 対象プラットフォームの選定

自社商品が出品されやすいサイトを的確に選定しましょう。大手ECモール(Amazon、楽天市場など)やフリマアプリ(メルカリ、ヤフオク!など)はもちろん、海外の越境ECサイトも視野に入れる必要があります。
 
商品によっては、特定の専門通販サイトやSNSのマーケットプレイスが温床になっているケースもあります。例えば、専門のパトロールサービスでは、権利者へのヒアリングを通じて模倣品が出回る可能性の高いサイトを特定し、優先順位をつけて巡回リストを作成します。

③ 模倣品を見つけ出す検索キーワードの工夫

模倣品の出品者は、発見を逃れるために様々な隠語や表記ゆれを用います。
例:
・「シャネル」 → 「CHANEL風」「シャ〇ル」「C社」
・「エルメス」 → 「HERMESタイプ」「エ◯メス」「馬のマーク」

こうしたパターンを想定し、ブランド名や商品名だけでなく、考えられる関連ワードを洗い出して検索することが重要です。また、「商品カテゴリ+ブランド名」での検索や、画像検索、価格帯での絞り込みなども有効なテクニックです。

④ 「人の目」と「テクノロジー」のハイブリッド運用

近年、プラットフォーム側もAIによる自動検出(例:Amazonの「Project Zero」やメルカリのAI出品監視)を進めていますが、最終的な真贋判定には、依然として経験豊富な「人の目」による確認が不可欠です。

AIによる自動化は効率的ですが、誤検知で正規品を削除してしまうリスクもゼロではありません。ツールはあくまで発見の補助と位置づけ、最終判断は人が行うハイブリッドな体制が理想的です。

⑤ 継続的な運用を支える社内体制

パトロールを形骸化させないためには、社内の体制づくりも欠かせません。
・発見時の報告ルートと対応フローの明確化
・対応履歴を一元管理する仕組みの構築
・知的財産に関する定期的な社内研修の実施

リソースが限られている場合でも、まずは主要なECサイトの定期検索から始め、少しずつ社内にノウハウを蓄積していくことが、実効性のある対策への第一歩となります。

4. 模倣品発見後の削除依頼・対応フロー

模倣品を発見したら、迅速かつ的確な対応が求められます。ここでは、削除対応の具体的なフローを解説します。

  1. 【証拠保全】商品ページの情報を保存する
    まずは証拠を確保します。商品名、価格、出品者名、商品IDなどが写った商品ページのスクリーンショットを保存し、発見日時も記録しておきましょう。URLや商品IDも必ず控えてください。

  2. 【社内連携】関係部署へ速やかに報告
    確保した証拠をもとに、法務部や知財部などの関係部署へ速やかに報告・連携します。担当部署がない場合でも、必ず上長やブランド管理の責任者に状況を共有し、対応方針を決定します。

  3. 権利侵害の確認】削除申請の根拠を固める
    その出品が、商標権、意匠権、著作権など、自社のどの権利を侵害しているかを法的な観点から確認します。判断に迷う場合は、弁理士や弁護士といった外部の専門家に相談することも有効です。

  4. 削除申請】プラットフォームの専用窓口から通報
    多くのECプラットフォームには、知的財産権の侵害に関する専用の通報フォームが用意されています。申請時には、権利者情報、侵害している権利の種類、該当商品のURL、権利侵害の具体的な説明などを、証拠と共に正確に提出します。

  5. 【履歴管理】対応記録を蓄積し、次に活かす
    「いつ、どのサイトで、誰が、何を、どう対応し、結果どうなったか」を必ず記録し、社内で共有しましょう。この履歴は、再発防止策の検討や、将来の対策を高度化するための貴重なデータとなります。

場合によっては、出品者への直接的な警告や、ファンによる善意の二次創作に対するガイドラインの提示など、状況に応じた柔軟な対応も必要です。

5. 模倣品対策の効果測定と改善サイクル(PDCA)

模倣品対策は、一度実施して終わりではありません。効果を可視化し、継続的に改善していくことが、ブランドを守り続ける上で不可欠です。

① 成果を測る指標(KPI)を設定する

対策の効果を客観的に評価するため、以下のような指標(KPI)を設定しましょう。

削除件数・削除率: 対策の実行力を示す基本的な指標。
発見から削除までのリードタイム: 対応の迅速性を測る指標。
再出品の抑止率: 対策の抑止効果を評価する指標。
正規の売上やブランド指標の変化: 対策による間接的なビジネス貢献度を測る指標。

② 費用対効果(ROI)を可視化する

対策にかかるコスト(人件費や外部委託費)が、どれほどの効果を生んでいるのかを説明することは、社内の理解を得る上で非常に重要です。特許庁の調査(2023年度)でも、企業が対策を実施しない理由として「費用対効果が見えにくい」ことが挙げられています。

対策の価値を明確にするため、例えば「削除した模倣品の推定販売額から、回避できた売上損失額を試算する」といった方法でROIを可視化しましょう。「ブランド毀損を防いだ」という無形の価値とあわせて報告することで、対策の重要性がより伝わります。

③ 定期的な社内報告とフィードバック

対策の成果は、月次レポートなどにまとめて定期的に経営層や関係部署へ共有します。KPIの進捗やROIの試算、具体的な成功事例などを盛り込むことで、対策への理解と協力を得やすくなります。

④ PDCAサイクルで対策を改善し続ける

模倣品業者の手口は日々巧妙化するため、対策も常にアップデートが必要です。

Plan(計画): 過去のデータに基づき、監視対象や検索方法を見直す。
Do(実行): 計画に沿って日々のパトロールや削除対応を行う。
Check(評価): 設定したKPIの達成度を評価・分析する。
Act(改善): 分析結果をもとに、検索キーワードの追加やマニュアルの更新などを行う。

このPDCAサイクルを回し続けることが、実効性の高い対策を維持する鍵となります。

まとめ|継続的な対策こそが、ブランドと信頼を守る鍵

本記事で解説したように、模倣品は企業の売上やブランド価値、さらには顧客の安全をも脅かす深刻な問題です。特にEC市場が主戦場となった今、そのリスクは看過できません。

模倣品対策を成功させるには、
・実効性のあるパトロール体制の構築
・迅速な削除対応と毅然とした通報活動
・継続的な効果測定と改善(PDCA)
この3つの要素が不可欠です。

とはいえ、「社内にリソースがない」「何から手をつければいいか分からない」とお悩みの企業様も多いのではないでしょうか。そのような場合は、アディッシュのような外部の専門パートナーを活用することも有効な選択肢です。模倣品対策は、一度行えば終わるものではありません。企業の未来を守り、顧客との信頼関係を育むための「守りの投資」です。本記事を参考に、ぜひ貴社でも実効性のある対策を始め、大切なブランドと顧客体験を守り抜いてください。

アディッシュは、10年以上にわたりオンライン上のモニタリングを通じて、企業のブランド価値を守る支援を行ってきました。模倣品・海賊版商品に対しては、発見から報告までの監視業務設計と実行支援を中心にご支援しています。

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