近年、SNSやオンラインコミュニティで拡散される根拠のないデマ情報が、企業経営に深刻な影響を与えています。風評被害やSNS炎上は、売上やブランド価値の毀損にとどまらず、株価下落や取引停止といった経営リスクにも直結しかねません。
実際、2025年には「日本で大地震が起きる」との噂がアジア圏のSNSで広がり、日本への旅行需要が落ち込み、航空各社の減便・運休が相次ぎました。観光業界の調査や報道によれば、この影響による経済損失は数千億円規模にのぼったと推計されています。こうした状況下では、広報・法務・カスタマーサクセス(CS) が連携し、迅速かつ的確に対応する仕組みを平時から整えることが不可欠です。
本記事では、デマ情報が企業経営に与える影響、拡散のメカニズム、広報・法務・CSそれぞれの役割と連携モデルを詳しく解説します。さらに、AIモデレーションの活用と限界、不安を抑える「安心空間」設計、実在の成功・失敗事例、そして有事に備える社内体制まで、経営リスクを最小化するための実践ポイントを網羅します。最後に、SNS・ライブ配信のモニタリングや炎上対策を支援するサービスもご紹介します。
デマ情報による風評被害は、業種を問わずどの企業にも起こりうるリスクです。根拠のない誤情報や誇張された噂が一度広まると、企業に様々な負の連鎖を引き起こします。例えば次のような影響が想定されます。
売上の減少・顧客離れ
商品やサービスに関する悪質なデマが拡散すると、不安を感じた顧客が購入を控え、売上低下につながります。不買運動に発展するケースもあり、長期的な顧客離れを招く恐れもあります。
ブランドイメージの毀損
事実無根の噂でも企業の評判が傷つけばブランド価値は大きく低下します。一度傷ついた信用を回復するには多大な時間とコストが必要です。
株価の下落・資金調達への悪影響
上場企業であれば、ネット上のネガティブ情報は投資家心理にも影響を及ぼします。実際にデマ拡散により一時的に株価が下落した事例も報じられています。株価低迷や評判悪化は、新たな資金調達や融資にも支障をきたします。
取引停止・人材流出
取引先がデマを信じて契約を見直したり、新規取引に二の足を踏むことも考えられます。また、企業イメージの悪化は採用活動にも影響し、優秀な人材確保が難しくなったり、社員の士気低下や離職を招く恐れもあります。
社会的信用の喪失
デマが放置され大炎上に至れば「対応が後手に回った企業」と見なされ、社会的な信頼を失いかねません。一度固定化した悪評を覆すのは極めて困難です。
実際、2025年には「日本で大地震が起きる」との予言デマがSNSで拡散し、訪日観光客のキャンセルや航空便の減便・運休も報じられました。野村総合研究所によれば、この影響によって インバウンド需要は約5,600億円超 減少するという試算がなされています。ただしこの数値はあくまで前提条件に基づいた試算であり、被害の実額はさらに変動の可能性があります。
野村総合研究所「堅調なインバウンド需要に水を差す科学的根拠のない7月の大規模自然災害の憶測:5,600億円規模の経済損失試算も」(NRI &N 未来創発ラボ, 2025年5月29日)
企業はこうしたデマ被害を決して他人事とせず、平時から備えを講じることが重要です。
デマ情報は様々な経路で発生・拡散します。その典型パターンとメカニズムを理解することが、早期対処の第一歩です。
こうした拡散の背景には、人々の心理も大きく影響しています。不安や恐怖を感じた人ほどデマを信じやすく、「誰かに教えなければ」という正義感や好奇心が拡散を後押しします。SNSでは同じ価値観の人が集まりやすく、閉じた共鳴空間でデマが増幅されるのも特徴です。実際、調査によれば「約8割の人がデマに気付かない」との結果も報告されています。
拡散のメカニズムは、匿名掲示板やSNSで火が付き、それをメディアが取り上げることで一気に拡大するという流れが典型です。一度広まったデマを完全に回収することはほぼ不可能であるため、企業には「最初の火種」を検知し、初期段階で対応することが求められます。
最近では、AI技術を活用した自動検知を導入する企業も増えています。SNSや掲示板上で自社名や製品名とネガティブワードが同時に言及された場合にアラートを出す仕組みなどです。ただし、AIだけでは文脈や悪意の有無を正確に判断できないため、有人監視とのハイブリッド体制が不可欠です。
デマや風評被害に対処するには、広報(PR)・法務・カスタマーサクセス(CS) の三部門が三位一体となって機能することが鍵です。それぞれの専門領域を活かしながら役割分担を明確にし、あらかじめ協力体制を構築しておく必要があります。
広報はデマ対応の最前線に立ち、正確かつ迅速な情報発信を担います。公式サイトでの声明発表やSNS公式アカウントでの発信により、事実関係を明らかにし、不安を感じているステークホルダーに安心感を提供します。
法務は、デマによる法的リスクへの対処を担います。
CSは、デマ拡散によって生じた顧客の不安に直接対応する最前線です。
三部門の連携の重要性
広報・法務・CSがそれぞれ独自に動いてしまうと、かえって矛盾や混乱を生み、状況を悪化させる恐れがあります。逆に、三部門が連携し、統一されたメッセージと行動を取ることで、デマ拡散の被害を最小限に抑えることが可能です。
企業がデマ被害に直面したとき、被害を最小化できるかどうかは発生から沈静化までの一連の対応フローを事前に整備しているかにかかっています。以下では、典型的なフローを5つのステップで整理します。
近年、SNSやオンライン上のデマ・不適切投稿への対処において、AIによる自動モデレーション(自動監視)が広く活用されています。AIは膨大な投稿を24時間リアルタイムで処理できる点で有効ですが、万能ではなく、人の判断と組み合わせた「ハイブリッド運用」が不可欠です。
AIと人の役割を分けることで効率と精度を両立できます。
デマが拡散するような有事の状況でも、顧客や視聴者が不安を感じにくい環境を平時から整えておくことが重要です。企業が提供するSNSやライブ配信、オンラインコミュニティを「安心して発言できる場」として設計しておけば、デマ拡散時の混乱を抑え、日頃のファンエンゲージメント強化にもつながります。
健全なコミュニティが維持されれば、顧客体験(CX)の質が向上します。安心できる空間ではユーザーが萎縮せず発言でき、新規参加者も交流に入りやすくなります。逆に荒れた場では、新規顧客が離れ、既存ファンも離脱してしまいます。
心理的安全性が確保された空間は、ファンの継続利用やUGC(ユーザー生成コンテンツ)の創出を後押しします。さらに「公式コミュニティなら正しい情報が得られる」という信頼が形成され、デマ拡散の抑止力にもなります。
ここで、デマ対応における実際の成功例・失敗例をいくつか見てみましょう。観光業・飲食業・小売業で起きたケースから、それぞれの教訓を整理します。
海外SNSで「〇月に日本で大災害が起きる」という予言デマが拡散し、訪日観光客のキャンセルが相次ぎました。航空路線の運休まで余儀なくされ、推計で数千億円規模の経済損失が発生。企業側がデマ把握に遅れ、自治体や観光局と連携した周知ができなかったことが被害拡大につながりました。
教訓:海外発のデマも早期にモニタリングし、公的機関と連携して迅速に打ち消す仕組みが不可欠。
東洋経済オンライン:「7月に日本で大災害が起こる」「地震か、津波か…」――ネット上を騒がせる大災難の"予言"。もし外れたとしても、素直に喜べないワケ
チロルチョコ株式会社では、「製品に虫が混入した」との動画がSNSで拡散。A社は即座に公式SNSで冷静に状況を説明し、投稿者とも直接コンタクトをとって事実誤認を確認。結果、投稿は削除され、ネット上では「企業広報の鏡」と称賛されました。
教訓:事実確認+顧客心理への配慮をもった迅速な広報対応が、炎上を信頼向上の好機に変える。
食品メーカーB社では、経営者の発言が誤解され「文化を軽視している」と批判が殺到。B社は当初静観しましたが、第三者メディアの記事で徐々に誤解が解消。しかし株価下落など一定の影響は避けられませんでした。
教訓:結果的に沈静化しても、企業自ら迅速に説明責任を果たさないとリスクは拡大する。
C社では不衛生な事案を隠蔽しようとした結果、内部告発で発覚し「隠蔽体質」と非難され炎上が拡大しました。
教訓:不祥事の隠蔽は炎上を悪化させる最大要因。初動で誠実に公表・対応することが信用維持の絶対条件。
以上の事例から、成功の鍵は迅速・正確・誠実な対応にあり、失敗の原因は対応の遅れ・情報発信の不誠実さにあることが分かります。特に食品や安全性に関わるデマは、一歩間違えば取り返しのつかない信用失墜につながるため、企業の真価が問われる場面といえます。実例を教訓に、自社ならどう動くかをシミュレーションしておきましょう。
デマ情報や炎上に備えるには、平時からの社内体制整備が不可欠です。いざという時に慌てず適切な行動が取れるよう、危機管理マニュアルを策定し、定期的な訓練と社員教育を重ねておくことが重要です。
まず、デマ拡散や炎上時の対応手順を網羅したマニュアルを用意します。初動対応から情報収集、社内連絡フロー、公式発表のプロセス、事後対応まで、一連の流れを具体的に明記しておきましょう。
このマニュアルは社員全員に共有することが大切です。特に現場のSNS担当者やCS担当者には「自分が第一発見者になり得る」という意識を持たせ、異変を見つけたら即報告する文化を根付かせましょう。また、日頃からのソーシャルメディアポリシー教育も不可欠です。
机上のマニュアルだけでは実戦で機能しません。半年〜年に一度は模擬炎上訓練や初動対応演習を行い、社員の対応力を養いましょう。
例えば「SNSで食中毒デマが投稿された」という想定をもとに、初動対応から謝罪発表までを実際にシミュレーション。訓練後に課題を洗い出してマニュアルを改善すれば、想定外の事態にも強くなれます。
平時から社員一人ひとりのSNSリテラシーを高めておくことも重要です。新入社員研修や定期研修で「フェイクニュースの見分け方」「情報発信者としての責任」を学ばせたり、過去の炎上事例をケーススタディとして共有することが効果的です。
また、内部通報制度を整備し「こんな噂を見た」と社員から報告が上がる仕組みを作ることで、早期発見につながります。
このように、平時の備えが有事の被害最小化につながるのです。デマや風評被害を完全に防ぐことはできませんが、社内体制を整え、社員が冷静に動ける環境を作ることで、致命傷となる前に危機を収束させることが可能になります。
根拠なきデマ情報や突然のSNS炎上は、現代の企業にとって避けて通れない経営リスクです。しかし、しっかり備え適切に対応すれば被害を最小限に抑えることができます。改めて強調したい【ポイント】は次のとおりです。
デマ情報そのものを完全になくすことはできません。しかし、社内体制の整備と部門横断のチームワークによって被害を抑え、企業のレピュテーションを守ることは十分に可能です。平時の努力こそが、有事の危機対応を成功に導きます。
アディッシュでは、企業の 風評被害や炎上リスク対策 を支援するモニタリングソリューション「MONI」を提供しています。
MONIは24時間365日体制でSNSやコミュニティサイト上の投稿を監視し、デマや不適切な投稿など 風評リスクの兆候を早期に検知。広報・法務・CSの連携による迅速な対応を可能にし、企業が安心して顧客や社会と向き合える環境づくりをサポートします。