スマートフォンの普及に伴い、いまや企業が何らかのSNS公式アカウントを持っているのも珍しいことではありません。その目的は、商品やサービスのプロモーションのため、会社のブランディングのため、とさまざまです。「中の人」のユニークな投稿で話題になった企業のSNS公式アカウントを思い浮かべる方も多いでしょう。 拡散力が魅力のSNSですが、一方でどうしても気になるのが「炎上」のリスクです。興味はあるがSNS運用を検討中の企業、そしてアカウントはあるが活用しきれていないという企業では、SNS炎上から始まるインターネット上の炎上リスクへの向き合い方にお悩みではないでしょうか。今回はSNS登場以来の炎上のパターンの変遷を振り返り、炎上のメカニズムを解説していきます。
そもそも「炎上」とはどういう状態を指すのか明確に定義するのは難しいですが、インターネット上における発言や行為に対して、非難、批判、誹謗中傷などのコメントや反応が殺到する現象のことです(用語集「ネット炎上」をご参照ください)。
TwitterなどのSNSへの投稿や掲示板への書き込みから、まとめサイトへの掲載、Yahoo!トピックなどの大手ネットメディアやテレビを始めとするマスメディアまで広がる規模の騒動です。
一方、大手メディアまで広がらないまでも、何らかのネットメディアで話題になるような炎上を「プチ炎上」と言うこともあります。
当社で調査したところ、このプチ炎上から大規模な炎上までを含めたSNS炎上を起因とした件数は、2017年は約1,000件に上ることがわかりました。
では、どのような投稿をSNSですると炎上になりやすいのでしょうか。ここ数年で実際に起きた炎上事案を振り返り、まとめてみました。
2013年〜2015年頃の炎上といえば、従業員による悪ふざけの画像など、不祥事や不適切な投稿が代表的なものでした。その後、SNS利用のガイドライン作成や社員教育の徹底により、この種の投稿は減少しています。
2016年には異物混入による炎上が世間を賑わせました。それまでの不適切な投稿とは異なり、消費者の発信が増加し、渦中に巻き込まれる企業の対応やSNS上のコミュニケーションの在り方にも焦点が当たりました。
そして2017年。スマートフォンを利用する日本人の中で、何らかのSNSを利用する人の割合は71.2%に上ります(※)。動画コンテンツによるキャンペーンも多数見かけるようになりました。そのような中で出てきた新しい炎上の傾向が「意図しない炎上」です。過去のシンプルな「やらかし」による炎上もなくなったわけではありませんが、この「意図しない炎上」が昨年あたりから極端に増えているのです。一部の例をご紹介しましょう。
(具体例)
企業・自治体 | 発生時期 | 炎上内容 | 具体的内容 |
---|---|---|---|
生活メーカー(米国) | 2017年10月 | 人種差別表現 | 黒人女性が服を脱ぐと白人女性に返信する動画CMに対する批判→CM取り下げ |
テレビ局 | 2017年9月 | 性的少数者への 差別的な表現 |
「保毛尾田保毛男」なる人物名に対する批判→謝罪 |
宮城県自治体 | 2017年7月 | セクシャル表現 | 性的な演出に対する批判→予定前倒して公開停止 |
石鹸メーカー | 2017年7月 | ジェンダー規範 | 優しい父を表現するも、子どもの誕生日に飲みに行くなどの批判→動画削除 |
特にジェンダー規範や社会的マイノリティを題材としたものに対して、企業(投稿者)の意図とは異なる受け止められ方で批判の声が上がり、その批判内容がインターネット上で共感を呼び、炎上に至るケースが多く見受けられます。社会属性によって受け止め方が大きく異なるというのが直接的な原因です。人々の共感を得られるだろうと考えて作ったコンテンツが悪評で話題になり、企業の担当者はさぞ困惑したことでしょう。
※平成29年版情報通信白書より。出典元:総務省情報通信政策研究所「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」
では、なぜそういう事態が起こるのでしょうか。炎上のメカニズムを紐解いてみましょう。
いまや習慣的にネットで情報収集やコミュニケーションを行い、自らもSNSやブログなどで積極的に投稿する人は少なくありません。SNSでの面白い投稿や議論など、話題の投稿をまとめて見られるサイトやアプリも数多くあります。もともとの炎上は、先に挙げたような「やらかし」をこうした「ネットの世界」に日常的に触れている人々が取り上げたことで起きていました。今も変わらずコアなネットの世界は存在しますが、ネットに触れない人々との境界が曖昧になってきています。
その背景には、ここ数年でハフポストやバズフィードのようにアメリカで成功を収めたネットメディアが日本に進出し、日常のペットの話題から社会問題まで幅広いテーマを取り上げ、数百万、数千万ユーザーが閲覧する規模に成長していることが考えられます。テレビや新聞、雑誌などの既存メディアもネットメディアを立ち上げ、いまやマスメディアとは一線を画した「ミドルメディア」が数多く見られるようになりました。こうした新しいメディアの記者たちはネット上の情報に精通していて、TwitterなどのSNSでいち早くとネタを探し、記事にしていきます。
その結果、SNSの投稿はSNSの世界だけの情報ではなくなりました。ほとんどネットに触れずに生活している人にも容易に伝わるようになり、圧倒的に多くの人たちの目に触れやすい状態になったのです。新しいメディアはネットの内部から外部へ「情報の翻訳」を行い、橋渡しの役割を担っていると言えるでしょう。
拡散力の魅力こそがSNSを活用するメリットですが、多様な社会属性の人々の目に触れることにつながり、投稿者の意図と全く違う角度から批判を浴びる事態も起きます。特にジェンダー規範(「女性らしさ」や「母親とは」など)や、社会的マイノリティ(「LGBT」や「人種」など)に触れるものは、世間の関心が高くセンシティブな話題なので、注意深く取り扱う必要があります。
そしてSNSが人々に普及した今、ネット上で意見を述べる行為は特別なことではなくなりました。たとえ情報を発信した企業が意図しない解釈のされ方をしたとしても、一度非難の声が上がると、声高に同調する人や深く情報を掘り下げずに拡散する人が現れ炎上し、その企業がどれほど丁寧に弁明をしたところで、炎上によるイメージを覆すことは難しいでしょう。
SNS担当者としては、最初の一歩を踏み出すのに躊躇するかもしれません。しかし「意図しない」と言っても、社会的な傾向を踏まえて炎上を避けるための対策を取ることはできます。企業のSNS担当者がやるべきこと、注意すべきことは何か。具体的なアクションや心構えについては後編「SNS運用の心構えを考える(後編)~SNS炎上を回避するための取り組みとは~」でご紹介していきます。