企業の「守り」を預かる広報担当者。しかし、業務範囲が幅広いうえに側から見えにくい作業が多く、リスク対策に手が回っていないと懸念している人も少なくないでしょう。そこで本日はリスク対策に欠かせない「エゴサーチ」について、具体的にどのように行うとよいか、検索のコツも含めてご紹介したいと思います。
2017年は日本を代表する大企業の不祥事が相次いで報道されました。広報担当者にとって気になるニュースが多かったのではないでしょうか。従業員の労働問題、製造業におけるデータ改ざんなど内容はさまざまですが、なかにはネット掲示板へ書き込まれた告発が騒動の発端という話もありました。「内々に処理するつもりだったが、ネット掲示板の書き込みがあったので公表することにした」という謝罪会見での率直すぎるカミングアウトに注目が集まったことも記憶に新しいでしょう。
また、最近では成人式当日に振袖業者が業務放棄したという事件が起きました。同名、同じ読み方の別企業にはいたずら電話や問い合わせが殺到したそうです。その渦中にある企業の代表者が、SNS上で自社に寄せられた応援への感謝や事業への想い、問題の振袖業者に向けメッセージを綴ったブログが話題になりました。誠実な事業姿勢が感じられる内容で、突然の危機にすみやかに対処し自社のイメージを守っていると言えるのではないでしょうか。
現在、企業のリスクマネジメントを考える上でソーシャルメディア、とりわけSNSに存在する自社の情報は無視できません。広報担当者はエゴサーチを行って日頃から自社に関する評判を把握し、すみやかに対策が取れるよう心がけたいものです。
それでは、まずは改めて「エゴサーチ」の定義を確認してみましょう。
「エゴサーチ」とは、インターネット上における自分自身の評判について、検索サイトやSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)などを利用して確認する行為を指します。自我、自己を意味する「ego」と「search」(調べる)を組み合わせた言葉で、「エゴサ」と略されることも。英語ではエゴサーフィン(egosurfing)とも言われます。
エゴサーチの詳細はこちら:用語集「エゴサーチ」
芸能人やブロガーのように、個人で表現活動をする人が行うものというイメージが強い言葉ですが、企業が自社の評判を調べることについても同じように使われています。
企業名で検索しただけでも、ヒットするのは自社で管理するウェブサイトやニュース等の公開情報だけではないはずです。発表したプレスリリースを転載したまとめサイトや、知らない人のTwitterでの発言などが出てくることもあるでしょう。
企業によるエゴサーチの目的は、ソーシャルリスク対策かマーケティング活動の反響調査に大別されます。そしてリスク対策が目的である場合は、多数の情報の中から炎上やマイナスイメージにつながるような「芽」をいかに早く発見するかが重要です。漫然と会社名や製品(商品)名だけで検索することは効率的とは言えません。
先に述べたように、エゴサーチの対象は広くインターネット全体となります。しかし、実際はTwitter、InstagramなどのSNSやGoogleなどの検索エンジンでの調査が一般的です。
ソーシャルリスク対策において特に重要なのはTwitter、Googleでのエゴサーチです。Twitterは匿名で情報発信できる場ということもあり要チェックです。企業や製品に対する辛辣な声が埋もれていたり、その評価をめぐる意見交換が今後のリスクの火種となる可能性があるからです。実際に炎上のきっかけはTwitterの投稿が発端であることが非常に多いです。また、Googleは特定のSNSに限定せず、広くインターネット上の情報を拾うことができます。そのためエゴサーチの際は並行して実施することをおすすめします。
一方で、マーケティング活動の反響調査を目的とする場合には、TwitterやGoogleだけでなく、Instagramも候補の一つとなってきます。Instagramは写真の投稿がメインで、見映えのする写真を使って商品のレビューや訪れたお店の感想などを投稿しているユーザーが多いのが特徴です。そのためInstagramのエゴサーチは商品やお店の評判・口コミを知るために行うのに適しています。最近ではInstagram上で広告を掲載したりキャンペーンを展開する企業も増えているため、Instagramでのエゴサーチはその反響調査の側面が強いと言えます。
いずれにしろ、エゴサーチを実施する場合には、限られたリソースや予算のなかでターゲットユーザの利用者数が多いメディアを選ぶ必要があります。そして必要な情報を見落とさないように細心の注意を払って進めましょう。単に社名やサービス名 で検索するのではなく、意識的に見つけたいワードを登録し、なるべく条件に合致した(関連性の高い)ものを見つけ出す工夫をしたいところ。以下に具体的なエゴサーチのコツをいくつかご紹介します。
基本的に、画面右上にある検索窓に調べたい言葉やURLを入力して検索するだけです。
しかし、会社名やサービス名によっては無関係の情報が出てくることも多く、一つずつ目で追うのは大変です。
そこで、件数を抑える工夫をしてみましょう。
・Tips1〜検索したいワードは”(ワード)”と登録し、品詞分解を回避する
検索は文脈まで読み込んではくれません。
勝手に品詞分解されたくない場合は「 "(ワード)"
」でワードを区切らないと、ワードの一部一文字だけ含まれる別の投稿を拾ってしまい、無駄に件数が膨らみます。
・Tips2〜「AND」や「OR」で繋げて内容を絞り込む
できる限り繋げたほうが収集件数を減らすことができるので、効率的です。
ここではカッコは利用できないので注意しましょう。
使い方の例をあげます。
製品名とリスクワードを掛け合わせて検索する場合は、以下の通り入れてみましょう。
"製品名" AND "リスクワード1" OR "リスクワード2" OR "リスクワード3"
これで製品名と想定するリスクの両方に触れられた投稿をみつけられます。
また対象キーワードに、違う読み方や他の表記が想定される場合は、伏字にせず全て抽出しましょう。その場合は以下のように書きます。
"製品名" OR "類似製品名" AND "リスクワード1" OR "リスクワード2" OR "リスクワード3"
・Tips3〜不要な話題や無意味な投稿を除外し、さらに絞りこむ
Tips2で抽出した投稿数がまだ多く、特定のテーマに関する話題を除外したい場合は、「 -"(NOTワード)"
」と繋げてそのキーワードを設定しましょう。
"製品名" OR "類似製品名" AND "リスクワード1" OR "リスクワード2" OR "リスクワード3" -"NOTワード"
また、特定のユーザーからの投稿を取得しない場合には「-from:アカウント名」が使えます。botアカウントや無意味な投稿を繰り返すユーザーがいる場合は設定しておくと良いでしょう。
"製品名" OR "類似製品名" AND "リスクワード1" OR "リスクワード2" OR "リスクワード3" -"NOTワード" -from:アカウント名
さらに、特定のユーザー宛の投稿を排除する場合は「-to:アカウント名」と続けます。公式アカウント宛の投稿を除外し、埋もれた情報を見つけたいという場合に便利です。上記-fromと組み合わせることもよくあります。
"製品名" OR "類似製品名" AND "リスクワード1" OR "リスクワード2" OR "リスクワード3" -"NOTワード" -from:アカウント名 -to:アカウント名
その他にも、知っておくと便利なTwitterの検索技は数多くあります。リツイートやお気に入りの数が多いツイート(数値の指定が可能)、特定の期間のツイート、画像か動画が添付されているツイート……と便利な検索方法があちこちで紹介されています。実は、Twitterも「高度な検索」というページを用意しているので、確認するとよいでしょう。
Twitter検索方法リスト
"(ワード)" |
分解を回避。スペース等も一つのキーワードとして含んで検索 |
"製品名" AND "リスクワード1" OR "リスクワード2" OR "リスクワード3" |
製品名とリスクワードを掛け合わせて検索 |
"製品名" OR "類似製品名" AND "リスクワード1" OR "リスクワード2" OR "リスクワード3" |
違う読み方や他の表記が想定される場合 |
"製品名" OR "類似製品名" AND "リスクワード1" OR "リスクワード2" OR "リスクワード3" -"NOTワード" |
特定のテーマに関する話題を除外したい場合 |
"製品名" OR "類似製品名" AND "リスクワード1" OR "リスクワード2" OR "リスクワード3" -"NOTワード" -from:アカウント名 |
特定のユーザーからの投稿を取得しない場合 |
"製品名" OR "類似製品名" AND "リスクワード1" OR "リスクワード2" OR "リスクワード3" -"NOTワード" -from:アカウント名 -to:アカウント名 |
特定のユーザー宛の投稿を排除する場合 |
使い慣れている方が多く検索場所は言うまでもありませんが、念のためにいくつかコツをご紹介します。
Tips1 特定のワードをワンフレーズとして検索する
Twitterと同じように"ワード"
とすることで分解を回避できます。この検索ではキーワードに完全一致したものを抽出できます。長めのキーワードや文章などを検索したい時に便利です。
Tips2 「OR検索」と「AND検索」を使いこなす
検索エンジンに複数キーワードをスペース区切りで書き込むのは「AND検索」といい、全てのキーワードを含むページを検索対象とします。それに対し、「OR検索」はいずれかのキーワードを含むページを抽出します。
表記例:◯ OR ◎
そのため情報を広く抽出したい場合は「OR検索」を使い、いずれかのキーワードを含むページを検索すると良いでしょう。もちろん「AND検索」での検索結果も対象に含まれます。
さらに「OR検索」と「AND検索」を組み合わせると、絞り込みもできます。
表記例:(◯ OR ◎) ×
これで◯か◎いずれかのキーワードを含み、かつ×を含むという条件を指定できます。
Tips3 曖昧なフレーズを検索する
文章の中で分からない部分があるとき、その部分に*(アスタリスク)を使うと、曖昧なフレーズの一部を抽出することができます。
Google検索方法リスト
「 "(ワード)" 」 |
キーワード分解を回避して検索。スペース等も一つのキーワードとして含んで検索可能 |
◯ AND ◎ |
◯と◎すべてのキーワードを含む |
◯ OR ◎ |
◯か◎いずれかのキーワードを含む |
(◯ OR ◎) × |
◯か◎いずれかのキーワードを含み、かつ×を含む |
*(アスタリスク) |
文章の中の分からない部分に*(アスタリスク)を使い、曖昧なフレーズの一部を抽出 |
Instagramでは写真を投稿する際、被写体(商品や店舗など)に関する情報や、撮影場所、その時の感情などを載せるのにハッシュタグ「#」を活用するのが一般的です。例えば自社の商品名をハッシュタグを用いて検索すれば、どれだけの人が投稿しているかがわかります。エゴサーチの場合にもこのハッシュタグを活用しましょう。
Tips1 ハッシュタグ検索をする
PC版では画面上部の真ん中に、スマートフォンのアプリ版では画面下部の左から二番目に検索欄があります。ここにハッシュタグを付けた商品名や店舗名を入力すれば、そのハッシュタグがついた写真(投稿)を見ることができます。アプリ版の場合は、検索画面で「アカウント」「ハッシュタグ」「スポット」とタブが分かれているので、ハッシュタグを選び検索したいワードを入力します。
もし特定のキャンペーンにひもづく投稿を見る場合や、投稿時にお客様へ使ってもらっている独自のハッシュタグがある場合は、それを使って検索しましょう。ピンポイントで絞り込まれた投稿がでてきます。
なお、TwitterやGoogleとは違い、Instagramでは複数タグを一緒に検索することはできません。その点のみ留意してご利用ください。
手動ではなく「ツールを使う」というのも一つの手です。
例えば、TwitterやFacebook、Instagramのツイートをまとめて検索できるYahoo!リアルタイム検索。こちらはヤフー公式のアプリですが、無料なのでよく使われているツールでしょう。固定のワードの検索のみならず、話題のニュースやおもしろ画像を見ることもできます。
現在エゴサーチをはじめとしたソーシャルリスニングを実施する企業はどんどん増えています。冒頭で触れましたが、その目的も風評被害や炎上防止等のリスク管理だけでなく、コミュニティ醸成・購買促進等マーケティング活動における反響調査まで広がっています。効率的な情報収集と分析というニーズに応えた数多くのソーシャルリスニング専用ツールが発表され、普及しつつあります。
そうした中で、目的に応じて自社に最適なツールを選定することも大切です。参考までにソーシャルリスニングに有効なツールをまとめた記事もありますので、是非ご参照ください。
エゴサーチの方法や便利な検索技をいくつかご紹介しました。今までと違う方法を試すと、初めて見る情報も多数出てくるでしょう。
ただ、いざ日々の業務にエゴサーチを取り込んでいくと考えると、やはり二の足を踏む方も多いようです。限られた時間のなかでどこまで手間をかけられるか。また失敗できない場面で「適切に行えること」のプレッシャーも大きいでしょう。
エゴサーチとリスクマネジメントに関する不安の声をよく耳にします。
「毎日定期的に時間を取れるだろうか」
「書き込まれる言葉を想定して適切なリスクワードを設定するって難しそう…」
「拾った情報がリスクかどうか判断できる自信がない」
「社内へのレポーティングはどのようにすべき?」
「いざリスクが発生した際、継続してウォッチしていくにはどうしたら良いのか」
こうした不安をお持ちの方には、外部へ委託するという選択肢もあります。
私たちアディッシュはソーシャルリスニング事業(https://monitor.adish.co.jp/service/social-listening/)を展開しています。
24時間365日体制で、専門チームがお客様の把握したい情報に合致するネット上の書き込みを検知。定期的なレポーティングまで対応します。お客様は自社でのエゴサーチの時間削減はもちろん、問題のある書き込みがあった場合の初動へ集中することが可能になります。
いまや企業が自身でコントロールできない情報がインターネット上に星の数ほど存在します。ネットの声や自社への評価に耳を傾ける必要性があることは言うまでもなく、エゴサーチはその一つの手段です。
リスク対策が目的ならば、いかに危機の芽を早く見つけ出し、適切な対策を講じることができるかがすべてです。業種や企業規模、サービスのフェーズ等により、広報担当者に求められるリスクマネジメントのレベルは異なります。特に顧客の反応が大きく事業に影響するBtoCの事業では、重要度が高いと言えるでしょう。
とはいえ、広報担当者が業務で対応できる範囲は限られます。
なんとなく…になりがちな情報収集について、これまでの取り組みを見直し、どこまでやるべきかを検討するきっかけとなれば幸いです。