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「備えているつもり」が危ない:機能していない炎上リスク対策の見抜き方

はじめに:「うちは備えている」が通用しない時代

SNS、口コミ、社内チャット、外部メディア──企業を取り巻く情報環境は、かつてないスピードと広がりをもって変化しています。一瞬の投稿が「炎上」へとつながり、企業ブランドを大きく傷つけるリスクが、すべての業種に潜んでいます。

多くの企業が炎上リスクに備えて、モニタリングツールの導入や危機管理マニュアルの整備を進めています。しかし、「対策を講じている=実際に対応できる」というわけではありません。むしろ「備えていたのに対応できなかった」という声のほうが現場では多く聞かれます。

本記事では、SNS・口コミ・社内発信等のリスクに日々向き合う広報、コンプライアンス、リスクマネジメント担当者に向けて、「備えているつもり」の対策がなぜ機能しないのかを解き明かします。よくある機能不全の兆候と、その背景にある誤解や構造的な問題を整理したうえで、実効性のある対策の設計指針とチェックポイントを提示します。

1. 表面上の備えと“動けない現場”のギャップ

現場の声に見る「備えているつもり」

炎上リスクに対する備えとして、モニタリングツールの導入や危機対応マニュアルの整備、SNSガイドラインの策定に取り組む企業は年々増えています。形式的には「準備できている」と言える状態でも、現場では別の課題が浮かび上がっています。
実際には、次のような声が頻繁に聞かれます。

 ・「マニュアルはあるけれど、読んだことがない」
 ・「ツールを導入したが、誰もきちんと使いこなせていない」
 ・「報告フローは決まっているが、どこからが“対応すべきレベル”なのか判断に迷う」
 ・「とりあえず広報に回したが、そこで対応が止まってしまった」

これらはいずれも、「備えがある」ことと「それを動かせる」ことの間に大きなギャップがある状態を示しています。
マニュアルが存在しても現場に浸透していなければ、初動で活用されることはありません。ツールも、運用ルールや担当が明確でなければ、単なる“導入済みアイテム”にとどまります。報告フローが整っていても、誰が何を判断するかが明文化されていなければ、行動にはつながりません。

特に問題となるのが、「リスクっぽいから一応広報に共有する」という判断で止まってしまうパターンです。この背景には、リスクの一次判断や初動の役割が定義されていないこと、そして「炎上=広報の問題」という誤解が根強く残っていることがあります。
備えが「あるだけ」になっていないか。現場が迷わず動ける体制になっているか。炎上リスク対策では、この“準備と実行の乖離”を埋めることこそが最大のポイントです。

2. 初動ミスと組織連携不全が引き起こす“第2波炎上”

炎上を拡大させる「対応の不備」

近年では、炎上のきっかけとなる問題そのものよりも、企業側の対応の不備や判断の遅れによって、炎上が拡大するケース(いわゆる“第2波炎上”)が増加傾向にあります。これは、初期対応の判断ミスや、関係部署との連携不足によって事態が深刻化してしまう構造的な問題です。
たとえば、次のような事例がその典型です:

  • SNS上で批判が拡散しているにもかかわらず、「様子見」を選択し、公式対応が遅れる
  • 定型的な謝罪文しか出せず、誠意が伝わらずに批判がさらに加熱する
  • 広報、経営、CS(カスタマーサポート)、人事など関係部署の連携が不十分で、一貫性のない対応になる
  • 投稿を無言で削除し、それが「隠蔽」と受け取られる
このような対応の不備は、火種そのものよりも企業への信頼低下を加速させてしまいます。特に現代のSNS環境では、「何を言ったか」だけでなく、「どう対応したか」「どれだけ早かったか」が厳しく評価されます。

実例で見る「第2波炎上」

2020年に発生した某企業のCMでの炎上では、「歴史認識を軽視しているのではないか」という批判がSNS上で急速に広がりました。企業側が即座に対応を出さなかったことが「沈黙」「逃げ」と捉えられ、報道でも取り上げられるほど大きな問題となりました。結果として、「対応が遅れた」ことそのものが批判対象となり、炎上の規模が拡大した典型的な事例です。

また、ある教育関連企業の個人情報に関するトラブルでは、謝罪文の表現が形式的で心が感じられず、「責任を回避しているのでは」という疑念が世間に広まり、炎上が再燃しました。ここでも、「対応の不適切さ」がブランド信頼に直接的な悪影響を与えています。

さらに、あるアパレルブランドでは、差別的と指摘された投稿を理由の説明なく削除したことで「隠蔽行為」と受け取られ、炎上が拡大しました。削除行為は火消しに見えやすく、文脈の説明や透明性が伴わない限り、逆効果となるリスクが高いという教訓です。

「沈黙は金」では済まされない時代

現代において、リスク対応の基本は「誠実さ」「スピード」「透明性」です。SNSなどを通じてリアルタイムに情報が拡散する中で、反応が遅れたり、内容が曖昧だったりするだけで、企業への評価は大きく下がります。

特に、以下のような対応が求められています:
  • スピード:数時間の遅れでも炎上の温度が急上昇する
  • 誠実さ:表面的でない真摯な言葉と姿勢が必要
  • 透明性:事実を伏せず、背景を含めて説明する姿勢
これらの姿勢が欠けると、「問題への対応が不十分だった」と判断され、SNS上での非難やメディア報道につながりやすくなります。
つまり、「適切に反応できない」「対応体制が属人化している」「関係部署の連携が取れていない」状態そのものが、第2波炎上を招く最大のリスクなのです。

3. 機能していないリスク対策:5つの代表的な兆候

1. モニタリングツールは導入しているが、気づくのが遅い

導入当初は活用されていても、運用が属人化し、「誰が見るか」が曖昧になっていないでしょうか? 通知設定やキーワード登録が不十分なままだと、深刻な投稿が見逃される危険性があります。

2. 危機管理マニュアルが古くて更新されていない

数年前に作成したまま、炎上トレンドやSNS仕様の変化に対応していないマニュアルは、現場では役に立ちません。特にLINEオープンチャットやTikTokなど、新しいプラットフォームに対応していない場合は危険です。

3. 担当者が変わると情報が引き継がれない

担当者の退職や異動のたびに対応履歴が失われると、再発防止やナレッジ共有ができなくなります。組織的に「記録」と「振り返り」が管理されていない証拠です。

4. 炎上対応が「広報任せ」「上層部判断待ち」になっている

炎上リスクの初動対応を広報部門に一任していたり、役員の判断がなければ動けない体制では、対応のスピードが著しく低下します。たとえば、次のようなケースが見られます:

  • 社内で問題の指摘があっても「まず広報に回して判断を仰ぐ」ため、対応が一時停止してしまう
  • 初動対応に必要な権限が現場に与えられておらず、「役員会の確認が必要」と判断が数日遅れる
  • 部門間で責任の押し付け合いが起こり、誰も主体的に動けない

こうした状態では、「備えがある」にもかかわらず、「実際には動けない」組織になってしまいます。炎上対応では、スピードと判断の明確さが何より重要であり、現場レベルでも意思決定できるフローの構築が欠かせません。

5. リスク報告をメールや電話に頼っている

トラブルや炎上の火種に気づいたとき、対応部署への連絡をメールや電話に頼っている体制では、担当者が不在だったり、すぐに気づかなかったりして、初動対応が遅れるリスクがあります。
また、やりとりが一対一になりやすく、関係者全員に情報が同時に共有されないという問題もあります。

緊急時の報告は、SlackやTeamsなどのチャットツールを使い、「専用チャンネルで関係者全員に即時共有する」ような運用にしておくことが望まれます。これにより、情報伝達のスピードと正確性が大きく向上し、初動の遅れを防ぐことができます。

4. よくある誤解と盲点:なぜ効かないのか

「AIモニタリングで安心」は注意が必要

AIによるSNSモニタリングツールは、特定のキーワードやネガティブな感情を含む投稿を自動的に検出することができます。
しかし、それだけで炎上リスクを完全に把握できるわけではありません。
たとえば、以下のような投稿はAIが見落とす可能性があります:

  • 皮肉や遠回しな表現:「さすが○○社、期待を裏切らない対応ですね」といった言葉は、文字面だけ見ると称賛のようですが、実際には過去の対応への不満や諦めを込めた皮肉であることがあります。
  • 暗喩や比喩的な言い回し:「火のないところに煙は立たないらしい」など、具体的なキーワードが含まれない投稿もあります。
  • 流行語やミームを使った揶揄:SNS特有の表現やその時々の流行語を用いた投稿は、機械には文脈の把握が難しい場合があります。
  • 伏せ字や隠語の使用:「○○社(←あの有名なところね)、またやらかしたっぽい」など、企業名を直接出さずに批判する投稿も多く見られます。

このように、AIツールは便利な一方で、投稿の意図や背景をくみ取る力には限界があります。
そのため、モニタリングをAI任せにするのではなく、人の目と判断を組み合わせた運用体制を構築することが重要です。

マニュアルがあるだけで満足してしまう

危機対応マニュアルを作成したことで「備えは万全」と思い込み、実際の運用がされていないケースは少なくありません。マニュアルが現場に浸透していなければ、いざというときに役立たず、形だけの存在になってしまいます。定期的な訓練やレビューを通じて、「使える状態」に保ち続けることが必要です。

「広報の仕事」という思い込み

リスクの発生源は部門を問いません。人事・法務・カスタマーサポート・経営企画など、関係部門が一体となって動ける体制が不可欠です。

たとえば、社内で問題を発見した際には、CS部門が一次判断を行い、必要に応じて法務がリスクの整理、広報が社外対応の草案を作成し、経営企画が方針を最終決定──といったように、あらかじめ役割と判断の分担を決めておくことで、連携がスムーズになります。

このような「部門横断の即応チーム(リスク対策ユニット)」を平時から定義・共有しておくことが、炎上の初動対応におけるスピードと精度を高めるカギとなります。

「火種が見えてから動く」では遅い

炎上は、気づいたときにはすでに拡散が始まっているケースが多く、投稿の“火種”が見えてから対処しようとしても間に合わないことがあります。

たとえば、「様子見」を選んだ結果、初期のクレーム投稿が共感を呼び、数時間で批判が加熱──という事例は珍しくありません。
こうした事態を防ぐには、「この様な投稿が出たら即共有」「初動判断は30分以内」といった具体的なルールを定めておくことが重要です。
 火がついた後に慌てて動くのではなく、火がつく前に動ける設計が求められています。

5. 現場がすぐ動ける炎上リスク対策の5つの条件

  1.  現場が初動判断・実行できる設計
    初動判断に役職や上層部の承認が必須では、スピード感は生まれません。現場主導で動けるルールと一次判断基準を明文化しておく必要があります。
  2.  部署横断で情報が流れる仕組み
    広報・法務・人事・カスタマーサポートなどがリアルタイムに連携できるよう、通知やチャットベースの共有環境を整備しましょう。

  3.  判断基準が明文化されている
    「どのレベルの投稿が即対応か」を判断できる基準が明確でなければ、対応の判断は個人に委ねられ、属人化します。

  4.  モニタリングの通知設定が現場に合っているか
    通知の条件が厳しすぎると重要な投稿を見逃してしまい、逆にゆるすぎるとどうでもいい通知が大量に届いて、本当に見るべき情報が埋もれてしまいます。

    とえば、「フォロワー数が少ない投稿は見なくていい」と設定していると、小さな炎上の火種を見逃すリスクがあります。一方、「ちょっとでもネガティブな言葉があれば全部通知」としてしまうと、現場は通知の山に埋もれて判断できなくなります。投稿の重要度や業務量に合った通知の条件を、定期的に見直すことが重要です。モニタリングが“本当に見るべき投稿”を拾える状態になっているか、運用の現場目線で点検しましょう。

  5.  優先順位をつけて対応し、記録を残す体制があるか
    炎上リスクには大小さまざまな種類があります。すべてを同じレベルで扱っていては、重要な問題にすばやく対応することができません。

    たとえば、「すぐに対応が必要な投稿」「経過観察でよい投稿」といったように、リスクの重要度に応じて優先順位をつける仕組みが必要です。また、どのような対応をしたかを記録に残し、後から振り返って改善に活かす体制も欠かせません。過去の事例を蓄積しておくことで、対応の質を高め、再発防止にもつながります。

今すぐ見直すべき5つの視点:チェックリスト

  •  初動対応がリアルタイム前提で設計されているか?
  • 投稿のスクショやURLがすぐに社内共有できる体制があるか?
  • “予兆”レベルの小さな違和感にも気づける運用になっているか?
  • 誰が初動判断をするか、フローが明確かつ属人化していないか?
  • 対応履歴の記録や、再発防止の振り返りが定常化しているか?

まとめ:“備えているつもり”から、実行できる体制へ

炎上リスクへの備えは、「備えている」こと以上に、「実際に使える状態にある」ことが重要です。
企業の信頼やブランド価値を守るためには、以下の3点が不可欠です。

 ・現場が動ける設計
 ・全社的な情報連携
 ・継続的な見直しとアップデート

「備えているつもり」で安心せず、実際に動くかどうかを常に点検すること。それが炎上リスクに強い組織をつくる第一歩です。

アディッシュは、10年以上にわたりオンラインコミュニティやSNSのモニタリングを通じて、企業のブランド価値を守る支援をしてきました。
 誹謗中傷や炎上への備え、ルール設計、投稿監視、ユーザー対応方針の整理など、数多くの課題に対応した実績とノウハウがあります。

 ・「そもそも規約をどう作ればいいかわからない」
 ・「投稿の監視が追いつかず、判断に困っている」
 ・「自社で体制をつくるのが難しい」

 このようなお悩みがある方は、ぜひお気軽にご相談ください。