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企業の危機管理にソーシャルリスニングが必要な理由(前編)

昨今SNSを広報やマーケティングに活用する企業が増えてきた一方で、その取扱いに慎重になる企業も増えています。SNSでは匿名で気軽に投稿、リツイートが出来るため、その内容によっては企業活動に大打撃を受けかねないというリスクがあるからです。SNSで風評が拡散するリスクに対して、企業はどのように向き合うべきなのでしょうか。
今回は、アディッシュのモニタリング事業部で提供する「ソーシャルリスニング」のアナリスト・Oに、同事業部に配属になった新人・花子が、企業の危機管理対策につながるソーシャルリスニングについて質問することで理解を深めていきます。
一緒に学んでいきましょう。

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ソーシャルリスニングとは何か

花子:今日はよろしくお願いします!
Oさんはいつ頃からソーシャルリスニングを専門にお仕事されてるんですか?
O:2014年の11月頃でしょうか? ちょうど食品への異物混入でSNSの炎上に社会的な注目が集まった時期です。

花子:あの事件は私も写真を見てびっくりしたのを覚えています。
O:写真付きというのも、ものすごい勢いで拡散した一つの理由でしたね。その後の企業の対応にも批判が集中しました。投稿者に削除を依頼したとか、社会に対しての説明に一貫性がないとか。当時は他にも類似の炎上案件がいくつかあり、「ネット炎上は怖い」と危機感をもった企業から、弊社のソーシャルリスニングサービスへの相談が急激に増えたのです。

花子:なるほど、ではさっそく、教えていただきたいんですが…SNSで炎上する危険性はよく耳にしますが、ソーシャルリスニングがなぜその対策につながるのでしょうか。SNSで誰もが自由に発信するようになったことや拡散するスピード感など、ソーシャルメディアで炎上する危険性があるというのはわかるのですが、ソーシャルリスニングの必要性、となるときちんと理解できていない気がします。
O:今は業種を問わず危機管理の観点で風評被害・ソーシャルリスク対策に前向きな企業は増えているので、ソーシャルリスニングのニーズは高いです。でもまずは「ソーシャルリスニングとは何か」から話を進めた方が良さそうですね。

花子:はい、お願いします。やはりソーシャルリスニングはネット炎上対策に効果的な取り組みなのですね。
O:はい、ただ必ずしもソーシャルリスニングは炎上対策だけのものではありません。ソーシャルリスニングの定義は何でしょう?

花子:ソーシャルリスニングとは、ソーシャルメディア(SNS)に投稿された消費者の素の声を収集・分析し、それらの意見を自社の商品やサービスの向上に役立てることです。用語集の「ソーシャルリスニング」を読んでも、「炎上」とは一言も書かれていません。
O:そうです。ソーシャルリスニングはあくまで、ソーシャルメディア上で傾聴し、それを企業活動に生かすためのもので、まずは広義で捉えるべき言葉です。ただし、商品や企業に対するネガティブな声が拡散することで企業活動に打撃を与えることもあるので、それを防ぐために実施するケースが多いというのもまた事実。私が相談をいただくお客様の多くはソーシャルリスク対策が目的です。

花子:たしかに、人気商品が風評被害にあったら、売上にもブランドイメージにも大きな打撃ですね。でも、反対にソーシャルリスニングをプラスの使い方、つまりポジティブな声を拾って商品企画や販売戦略に反映させているケースもあるということでしょうか。
O:もちろん。マーケティング用途として、市場全体の調査や顧客の反応を確認するためなど、目的に応じて実施している企業は少なくありません。海外では積極的に使われているので、私たちの資料でも紹介しています。
参考:8つの海外ケーススタディに学ぶソーシャルリスニングの活用方法

花子:マーケティング用途のソーシャルリスニングはアディッシュでは行わないのですか?
O:いえ、行わないというわけではありません。実際にお客様からご相談をいただくこともあります。ただ、アディッシュのソーシャルリスニングの一番の特徴が「24時間365日体制の有人監視」なので、マーケティング用途よりリスク対策用途の方が合っていると言えます。
参考:ソーシャルリスニングサービス

花子:24時間365日の有人監視がリスク対策に合っている理由について、もう少し具体的に教えてください。
O:マーケティング用途では収集する情報もレポートも目的にあわせて都度変わります。精度の高い詳細なレポートが定期的に出されることより、次の判断に必要な分析のサマリーがサクッと出てくる方が喜ばれます。そのため、予算のある企業ではソーシャルリスニングのツールを導入して、マーケターが自身で使うケースが多いのです。一方、SNS上のリスクは、いつ発生するかは分かりません。土日も含め常時リスクの発生を検知できる24時間365日の体制ならば火種の発生をいち早く検知することができます。
アディッシュでもSNS上の顧客とのコミュニケーションに焦点を当てたマーケティング用途の提案をすることは可能ですが、ソーシャルリスニングのサービスに関しては、リスク対策用途の話がほとんどです。

花子:なるほど…!よくわかりました。ありがとうございます。

企業でソーシャルリスニングを担当するのは誰か

花子:では、あらためて…お客様はソーシャルリスク対策を考える人が多いということですが、具体的にはどんな役割の方が多いですか?
O:はい。窓口になるのは危機管理担当の方や広報担当の方が多いです。

花子:危機管理の部門が対応するとなると、大手の企業の取り組みが多いのでしょうか。
O:企業規模は意外と幅広いです。危機管理の部門がない企業は、管理部門や社長室などが担当しているケースが多いです。特に飲食業や小売業といった顧客接点が多い業種では対策に注力している企業が多い傾向にあります。

花子:やはり「ネット炎上対策が必要」という意識は高まっているのですね。
O:そうですね。もちろん意識はされていると思います。ただソーシャルリスニングを実際にやるかどうかは「ひやっとしたことがあるかどうか」でしょうね。

花子:ひやっとしたことというと、炎上しかけたということですか?
O:その通りです。何らかのプチ炎上やボヤ程度のことでも、ソーシャルリスクの怖さに自身で触れたことがあるかどうかによって、対策の必要性が高くなります。
具体的には

  • レストランの食事で異物が混入している料理の写真がネットで拡散された
  • お客様相談室とのメールのやりとりをスクリーンショットで貼って批判をしたブログが話題になった
  • CMに想定外の反論を受けて放映中止になった

などです。最終的にはお客様相談室と連携して目の前の対応をするしかないので、収束するのを待ってうやむやに終わっているケースもあるでしょう。やはり「これじゃまずい」「対策して素早く正しい初動を取れるようにしたい」という背景がある方ほど真剣に考えています。

花子:多少なりとも費用がかかりますし、なんとなく始めるものではないですよね。
O:そうです。ツールを使うかどうかで幅があるものの、コストは月間数万〜数十万円程度、年間で見ると3桁になります。会社としてソーシャルリスク対策を行う必要性に対する理解がないと実施はできません。

花子:その場合、危機管理の予算として取られているのでしょうか?
O:危機管理担当の方が進める場合はそうだと思いますが、お客様によります。広報担当で一定の権限を持っている方だと、裁量内で依頼できる範囲かもしれませんね。がんばって業務内でチェックしているけれど、片手間で追いつかないと悩まれているお客様は、ご自身が割いている時間からコストを算出して予算を用意されています。

花子:なるほど、今さらですが「自力でがんばる」という選択肢もあるのですね。具体的にはどんなことをするのでしょうか?
O:自身で取り組む場合は「エゴサーチ」を毎日することが基本になります(参考:今さら訊けない「エゴサーチ」のいろは〜広報担当者のソーシャルリスク対策)。
検索するにしろ拡散を追うにしろ、まずTwitterは欠かせないでしょう。ベタかもしれませんがYahoo!リアルタイム検索も便利です。ただ、収集データが全体の一部であったり、キーワードの精度が低いとノイズが多く、膨大な情報を拾いすぎて時間の無駄になったり、反対に拾うべき情報が抜け落ちてしまったりします。実際やってみると面倒な部分も出て来ます。そのノウハウこそ私が実際にお客様に提案して、設計している部分です。

花子:正直なところ、発生するか確証もないリスクに備えて毎日作業するのは大変ですね。もちろん発生しないに越したことはありませんが。しかも都度チューニングを考えている余裕もなさそうです。設計から運用まで、プロのサポートが求められる意味がわかってきました。

あらためて”ソーシャルリスク”について考える

花子:ところで、炎上のイメージから当たり前のように「ソーシャルリスク」と話しがちですが、実際どんなものがソーシャルリスクと言えるんでしょうか。
O:何がリスクかはお客様の業種や規模、ご担当の業務に依存します。必ずあげられるのは機密情報漏洩ですが、部署や目的により、対象となる範囲も温度感も違ってきます。例えば人事担当の方であれば採用への影響などピンポイントな視点になりますが、広報担当の方であれば企業やブランドのイメージなど、より大きい範囲を見ることになります。危機管理担当の観点では、裁判につながるものや警察沙汰といった違法行為も入ってきますね。

花子:もう少し具体的に教えてください。
O:例えば人事担当の場合、「ブラック」とか「パワハラ」、「セクハラ」といった労働環境に関する情報が不用意に拡散されると困ります。採用面接に関する投稿も活動に支障が出ます。投稿者としては何気ないつぶやきで、必ずしも悪意があるとは限りませんが、受け手がどう見るかは別の問題です。このように、企業イメージを損なう投稿や非公開情報の暴露は、採用活動へ支障をきたす恐れがあるのでリスクと言えるでしょう。
それから、当然ですが商品やサービスに対するクレームも不買活動につながるリスクです。顧客の不満のコメントや低評価のレビューがすべて炎上につながるわけではありませんが、前に挙げた例のように、食べ物に虫が入っているような衝撃的な写真を添えた投稿やスクリーンショットで言質を取るような投稿は要注意です。実際にレジャー施設を運営するお客様の話ですが、設備の故障でボヤがあった際、火事の写真をつけた投稿がもとで、あっという間に情報が拡散されて驚いたということがありました。
また、違法行為についても知っておく必要があります。特に特定の企業名と一緒に「爆破予告」とか「脅迫」「異臭」などという投稿がされていた場合は、犯罪行為にとなります。警察との連携を考えなければなりません。

花子:ありがとうございます、イメージがつかめました。ただ、人間でも他人からの評価や悪口を気にする人と気にしない人がいると思うのですが、企業の場合、その投稿が炎上の火種となり得るものか、対策をとる必要性があるか、どのように線引きをするのでしょうか。
O:そこは、それぞれの企業次第なので難しいところです。私たちもお客様に提案をする際、事前調査を行ってリスクと言えそうな投稿を拾うのですが、どう判断するかはお客様によって違います。例えば交通系の企業様で、運行遅延に関わる投稿数や内容をご報告したら「遅延は認識しているので、リスク対象にしなくて良い」と言われたことがあります。一方で、いわゆるネット右翼と呼ばれるようなアカウントによる極端な書き込みも逐一報告対象にして欲しいと言われるお客様もいます。

花子:たしかに、リスクの認識はその後どのような行動をするかとセットですから、企業によって「リスクとして受け取るか」は判断が分かれるのも頷けますね。
O:はい、そうですね。「リスク」には分析して初めて発見されるものがあるのです。

花子:どういうことですか?
O:ソーシャルリスニングを実施して、初めて一般消費者が抱いている自社のイメージや気づいていなかった問題点を発見できることがあるのです。
例えば、ある小売業のお客様は返品トラブルに関わる投稿をリスクとしていました。ところが調査してみると、その企業の経営者の思想に対する批判的な投稿が一定数あることがわかったのです。商品やサービスの品質に対してだけではなく、経営者の印象という側面から企業イメージを考えるきっかけになったそうです。
それから、某食料品メーカーでの事例も紹介しましょう。あるブロガーが発信元なのですが、要約すると「某食料品を買いに行くと在庫もなく終売している商品だと説明を受けたが、メーカーのお問い合わせセンターに確認したところ、流通していると回答があった。一体どうなってるんだ」という内容です。一定の話題になったため弊社よりお客様に報告し、内部で調査したところ、商品はやはり終売しており、お客様問い合わせセンターには最新の商品流通情報が行き届いていなかったことが発覚しました。ちなみに、お客様はブロガーに直接アプローチして正式に訂正を伝え、謝罪したそうです。現場での問題をリアルタイムに把握し、改善につなげられるというソーシャルリスニングらしい良い例だと思います。

花子:ソーシャルリスニングを行うことで拾うべき言葉が見つかるというのは興味深い視点ですね。リスクとは何か、最初から言語化されているとは限らないということがよくわかりました。

今日はソーシャルリスニングを実施するお客様やソーシャルリスクについて、具体的な例を聴くことで理解が深まりました。
では、いざソーシャルリスニングを実施するとなった場合、どのようにリスクを見つけていくのでしょうか。その具体的な方法についても気になります。少し長くなったので、後編でお話を続けましょう。

企業の危機管理にソーシャルリスニングが必要な理由(後編)へ続く