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2019.09.11

【インタビュー】コミュニティサイトのリスク対策とは。ゲームコミュニティ運営のプロに聞く設計と運営方法

さまざまなサービスでコミュニティ運営に注目が集まる今、ユーザーの熱量が高いのがソーシャルゲームのコミュニティです。本日はアプリゲームのユーザー向けコミュニティマネジメントに知見の深い株式会社NAVICUSの代表取締役でありアディッシュ株式会社のソーシャルメディア・マーケティングフェローでもある武内一矢氏に、ゲームコミュニティの特徴や運営の実態、SNS活用で考えるべきリスク対策についてお話を伺い、コミュニティサイトの運営について考えていきます。


武内 一矢 氏

株式会社NAVICUS 代表取締役
ONNE パートナー
アディッシュ株式会社 ソーシャルメディア・マーケティングフェロー

2009年、株式会社オウケイウェイヴ入社。同社のマーケティング本部マネージャーとして、ソーシャルメディアを中心としたプロモーション戦略を展開。2015年、株式会社ディー・エヌ・エーに入社し、アプリゲームユーザー向けのコミュニティマネージメントおよびプロモーション施策実行を担う。2017年3月、ふるさと納税市場におけるリーディングカンパニーである株式会社トラストバンクに参画。ふるさと納税総合サイト「ふるさとチョイス」のマーケティング戦略策定のほか、プロモーション企画立案や実行、市場分析等を管轄。2018年7月、SNSマーケティングコンサルを行う株式会社NAVICUS設立。2018年10月、スマートフォンビジネスの多様な領域のスペシャリストが集まるマーケティングスタジオ「ONNE」の立ち上げに参画。
2018年10月より、ソーシャルメディア・マーケティングフェローとして、アディッシュへ参画。

ソーシャルゲームにおいてコミュニティが注目される背景とその位置付け

Q:今、なぜゲームコミュニティの運営に注目が集まっているのでしょうか?

武内氏:昨今、ゲーム業界ではコミュニティサイトの運営を成功させたい、活性化させたいという話をよく耳にするようになりました。その背景には日本のゲーム市場が寡占化している現状を理解する必要があります。いわゆるレッドオーシャンとなったゲーム市場のセールス上位は、ロングヒットのタイトルや版権のあるゲーム、海外から鳴り物入りで上陸した黒船のようなゲームが中心です。日本で新たにオリジナルのソーシャルゲームをリリースして成功するためにはこれらのメジャーリーガー級のゲームと戦っていく必要があります。

以前のように広告費をかければダウンロードが増える時代ではなくなり、そもそも投下できる広告費でも国内の新規タイトルは海外のタイトルに劣る場合も多いです。そのような状況下で、単純な面白さだけでなく愛着を持ってプレイしてくれるユーザーを集め、育てる取り組みとしてゲームコミュニティが注目され始めました。面白いからだけではなく、好きだからプレイする。つまり自分ごと化された唯一無二の存在になれるかが、ゲームが生き残り成功するためのポイントとなっています。

Q:ソーシャルゲームにおいてコミュニティを運営する目的とはなんでしょうか?

武内氏:目的は二つあります。マーケティング的な視点でいうと、先に述べたとおり現在は市場が寡占状況にあることから新規のユーザー獲得が難しく、リテンションが注目されています。一旦プレイしてくれた方に長く楽しんでもらうという囲い込みが、コミュニティ運営の目的の一つと言えるでしょう。

もう一つの目的は、人が人を呼ぶ構図を作ることにあります。耳にする機会が増えた「心理的安全性」()という言葉がありますが、これはユーザーサービスでも同じことが言えます。周りの人が誰も話題にしていないゲームの話はしづらいものですが、コミュニティで楽しそうに発言している人たちがいる状態なら恥ずかしい思いをせず発言しやすくなります。

※自然な自分をさらけ出してもストレスを感じない、問題のないような環境や雰囲気。

ゲーム会社におけるコミュニティ運営の実態

Q 施策として取り組む上でコミュニティ運営には独特のノウハウが必要なのでしょうか?

武内氏:そうですね。コミュニティ運営はマーケティング担当チームが施策として対応しているケースが多いですが、マーケティングとは仕事の仕方や、ビジネスのプロセスに違いがあります。ちなみにコミュニティ部門を独立して作っているゲーム運営会社はまだまだ稀です。

マーケティングは獲得を目的とした積み上げ式の施策思考なので、獲得数とその効率が重要になります。一方、コミュニティ運営は数字目標も大事ですが、より定性的な状態の変化を重視します。私はコミュニティの醸成をよく恋愛に例えるのですが、はじめに「面白そうだな」という印象を持ってもらい、次に「がんばって運営しているな」と好感を持ってもらう。そして「自分ももっと関わりたい」という意識を持ってもらうというように、ステップを踏んで関係を深めていく一筆書きの施策思考で進める必要があります。もちろん各段階でフォロワー数、エンゲージメント、アクティブなコメント数、など参考にできる指標はありますが、マーケティングと同じような積み上げ式で進めることは難しいでしょう。

よくある失敗例は、成功している他のコミュニティの取り組みをそのまま真似してしまうケースです。然るべきステップを踏んでいないのに形式的なイベント等を開催しても、ユーザーの熱量が違いすぎて盛り上がらないでしょう。マーケティングと比べると施策の横展開が難しいというのもコミュニティ運営の特徴だと思います。

Q コミュニティを活性化させ、うまく運営するためのコツはありますか。

武内氏:ユーザーの熱量を丁寧に見ていくことが重要です。例えば訴求ポイントを考える際に、人気の理由がキャラクターかストーリーか、はたまたグラフィックなのか、いくつかのパターンで投稿してエンゲージの高さなどユーザーの反応から探りPDCAを回していきます。

また、特定のユーザーを継続的に見て行く方法もあります。そのユーザーが満足している瞬間、不満がある瞬間と推移を見ながら背景を把握していくのです。現場の肌感を掴むのにとても良い方法なので、運営を担当する方にはぜひオススメしたいですね。

ゲームコミュニティの設計とSNSの使いどころ

Q コミュニティを設計する際、ユーザー同士のコミュニケーションを活性化させるコツなどがあれば教えてください。

武内氏:リアルな場での身近な会話に言い換えてみることをオススメしています。例えば対戦系のゲームなら、学校の休み時間に友人へ「一戦やろうよ」と声をかけるようなイメージです。

そういったイメージを組み合わせながら企画や機能をコミュニティに盛り込んでいくことになるのですが、それが上手くいくのかは、実際にやりながら考え改善していくことになります。施策を実行し反響を見た上で、思ったような反応をされているかというセンチメント・ビジョン(その状態のユーザーになんと言ってもらえると理想か)を設定して傾聴し、コミュニティを動かしていくのです。

Q 自社で運営するコミュニティとSNSとの使い分けはどのように考えるべきでしょうか。SNSは告知やアップデートのお知らせのように、目的ありきのような印象が強いのですが…?

武内氏:SNSに何の機能を持たせるかは設計次第です。情報収集をするメディアとしての位置付けもあれば、「ここに来れば盛り上がって楽しめる」というファンが集う場所としての位置付けも考えられます。

ただ注意しなくてはいけないのは、SNSに全部を担わせようとしないということです。仮にTwitterでライトユーザー向けの情報もヘビーユーザー向けの情報もごちゃ混ぜに発信していくと、どちらのユーザーからも不満が出る可能性があります。この場合例えば、拡散性があり気軽に使えるTwitterは初心者・中級者向けの場、コミュニティサイトは深い話をしたいユーザー向けの場、とプラットホームを分けた方がユーザーの満足度は上がるでしょう。このように、SNS単独ではなく広い視点で施策を考えることをオススメします。

コミュニティにおけるリスク対策とは

Q コミュニティ運営においてリスク対策はどの段階から考えるべきでしょうか?

武内氏:コミュニティのリスク想定は初期から考えるのがベストです。ユーザーの心理的状態を害するかどうか、という点に留意して考えていく必要があります。

ここで押さえておきたいのが、「2:6:2の法則」です。コミュニティは2割の好意的な信者層と2割の批判的な層、どちらともなり得る6割の中間層で構成されていると考えられます。ただし批判的な層の人たちもゲームに関わってくれているユーザーである以上、コミュニティを作り上げていく上で、ゼロにするという考え方はオススメしません。批判的な層を受け止めつつ、好意的な2割の声が影響力を持ち中間層の意見を引っ張るようなコミュニティを目指し、設計することが大事です。

好意的な層はコミュニティ運営者を助けてくれる存在です。例えばシステム不具合で緊急メンテナンスになった場合に「お疲れさま!」「運営さん、がんばって!」と応援するようなコメントをしてくれます。周囲が応援ムードだと後から他のユーザーは文句を言いづらいですよね(笑)。こうしたコミュニティでは、ゲームに好意的な人が気軽にコメントしたり、冗談を言ったりできる空気が醸成されています。

Q それでは批判的な層とどう向き合って行けばよいでしょうか?

武内氏:原則として、リアクションをいただけること自体がありがたい、という姿勢が大事です。ネガティブな投稿をした人が好意的な層に変化しないとは限りませんし、数あるゲームから選んで関わってもらっている、発言までしてくれているというのはそれだけでプラスの状態です。

批判的な層は製品やサービスの至らない部分を、コミュニティを介して指摘してくれている存在と言えます。むしろ批判的な層の声からコミュニティが炎上する場合、考えられる最大の原因は「ユーザーニーズを汲み取れていないこと」ではないでしょうか。批判的な投稿の背後にあるユーザーの心情に寄り添い、理解する姿勢が重要だと思います。

Q 日々のリスク対策、また炎上した場合に担当者は何を考えるべきでしょうか?

武内氏:批判の声など、リスクそのものをなくすことはできません。しかし、運営者は何が語られているか把握し、どう対処するか、あるいは対処しないか、というところまで含め意思決定する必要があります。

例えばソロプレイのゲームなのにPvP(多人数で参加するオンラインゲームの機能の1つ)の機能を求められても、ゲームの性質上対処しようがありません。しかし「強化アイテムが足りないじゃないか!」という声が多ければ、キャンペーンやログインボーナスを通じて強化アイテムをプレゼントすることはできます。つまりユーザーの声に向き合い、先手を打っていくのです。また、できないものはできないときちんと早く言った方が良いです。はっきり言わないでいるとユーザー間で期待感が高まってしまい、ユーザーの声を無視したと捉えられる危険性があります。ユーザーの温度感やどのくらいの人が言っているかを丁寧に追っていくことが大事です。

炎上時の対応に関しては、事態を認識していることをいかに早く伝えられるかが鍵になります。ちなみに、ここではその「認識」自体が間違っていないことも大事です。炎上事案でありがちですが、謝罪すれば良いという訳ではありませんよね。どういう状況かきちんと認識・理解した上での対応でなくては逆効果となりかねません。初動が早くてギャップが少なければ深刻な炎上にはならないでしょう。しかし、本当に普段から楽しんでいるコアユーザーの声が出ているゲームなら炎上は深刻化しないし、たとえ炎上したとしても鎮火しやすいはずです。結局は普段からユーザーの声を把握するということに尽きるのではないでしょうか。

Q どのような基準でBAN(アカウント凍結)など厳しい対処を行なっているのでしょうか?

武内氏:基準は会社やタイトルによりけりですが、BAN対応などのペナルティが生じる場合として多いのはチート行為、ユーザー同士のトラブル、決済関係の問題などでしょうか。ただし極端な例では、BANの対応状況を公開しているゲームもあります。チートユーザーは許せないと言う一般的なユーザーの心情を踏まえ「対応がしっかりしている」という点を伝える姿勢なのでしょう。

今後のコミュニティのあり方・方向性

Q リスク対策なども含め、コミュニティ運営者に求められる意識についてアドバイスがあればお願いします。

武内氏:これまでの話の中で触れましたが、重要なのは「傾聴」です。キャンペーンやユーザー対話はアウトプットが明確なので取り組みが進みやすいですが、聞き取ったユーザーの声を理解し対応していく取り組みがあって初めて効果を発揮します。ユーザーから信頼される運営を目指すなら、ユーザーの気持ちを理解する努力が欠かせません。特に勘違いしやすいのが、ユーザーの意図を汲むことと、言われた通りのことを実施することの違いです。これも傾聴の一つのポイントですが「なぜユーザーはそう言うのか」を考えましょう。例えば「ガチャの金額が高い」と言われたからといって安くする会社はないでしょうし、ユーザーもそれで満足するとは限りません。このコメントは、「体験と価値が釣り合っていない」から出てくる声と考えられます。本質的に楽しんでもらえていないのをどう工夫したらクリアできるか、演出や工夫のしどころですね。

そして、コミュニティ担当者に不可欠なのは「2:6:2の法則」の「6」の中間層、いわゆる潜在ユーザーを好意的な層に変化させるという意識です。何らかの「きっかけ」さえあれば、積極的に発話したりコミュニティのイベントに関わったりするユーザーとなり得る人たちでもあります。好意的な層が増えれば、それだけで荒れにくいコミュニティとなり、プレイ継続にも繋がりやすいでしょう。こうした観点でユーザーと関わり、コミュニティの運営を考えていくと良いのではないでしょうか。

Q 今後のコミュニティはどのようになっていくとお考えですか。

武内氏:今はコミュニティ運営というと先進的な取り組みという印象が強いと見られますが、今後は「サービスはユーザーと一緒に作っていくもの」という考え方が深まっていくだろうと考えています。

ゲームに限らずデジタルなサービスの世界では、数字を第一として施策に取り組んできた流れがありますが、これからはユーザーニーズに沿っているものがより生き残っていくでしょう。外から見てユーザーニーズを重視していると伝わることも重要です。
これらを実現するための取り組みとして、コミュニティをマネジメントするという意識を持つ企業が増え、事業展開における重要な役割を担うようになっていくだろうと考えています。

武内さん、ありがとうございました。

 

アディッシュではコミュニティサイトやSNSを運用する企業に、コミュニティサイトの設計支援や、炎上対策の支援としてコミュニティサイト監視SNSアカウント監視、SNS上のコメントをパトロールするソーシャルリスニングを提供しています。お気軽にお問い合わせください。

 

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この記事を書いた人

アディッシュのモニタリングソリューション「MONI」

ライター

アディッシュのモニタリングソリューション「MONI」

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