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2025.06.04

企業が運営するクローズドコミュニティで炎上を防ぐ方法:SNSと異なる責任と対応策

SNSと同じ感覚で始めてはいけない、クローズドコミュニティの運営

DiscordやSlack、LINEオープンチャット、専用アプリなどを活用した企業主導のクローズドコミュニティは、ユーザーとの関係強化やロイヤルティ醸成の場として注目を集めています。

しかし、SNSと同様の“ノリ”で運営してしまうと、思わぬトラブルやクレームに発展し、対応に追われるケースもあります。とくに閉鎖的な場であるがゆえに、企業に課される管理責任が重くなる点には注意が必要です。

クローズドコミュニティは、企業が主導権を持てる一方で、“ユーザーが安心して本音を語れる空間”としての期待も高まっています。しかし、誰が見ているかが明確であるがゆえに、SNSよりもトラブルが表面化しやすく、「対応を誤れば企業の信頼を大きく損なう」可能性があります。そのため、場の設計とリスク対応の両輪が求められるのです。

1. クローズドコミュニティ特有のリスクとトラブル

仲間内だからこそ起こる“見えづらい問題”

クローズドな環境は心理的安全性が高まりやすい一方で、以下のような内向きのトラブルが発生しやすい傾向があります。

  • ルール違反の“黙認文化”(例:特定のメンバーの軽微なルール違反を見て見ぬ振りをする)
  • 新規ユーザーに対する古参のマウント(例:「前からこのコミュニティにいるけど、そんなことも知らないの?」といった発言)
  • 陰口や内輪ネタの拡大による孤立感(例:特定のメンバー間だけで通じる話題で盛り上がり、新規参加者が疎外感を感じる)

これらはSNS以上に企業の運営姿勢が問われ、対応を誤ればブランド毀損につながりかねません。

実際の事例から学ぶリスク

たとえば、ある大手企業がDiscordで運営していたファンコミュニティにおいて、古参メンバーが新規参加者に対して“マウント”を取るような言動を繰り返し、運営が対応を怠った結果、SNS上で「排他的で不快な場」として拡散され、ブランドイメージに打撃を受けた事例があります。
閉鎖的とはいえ、スクリーンショットや口コミで情報が外に出る時代。内部の運営対応は、そのまま企業の姿勢として世間に可視化されてしまうのです。

「企業が運営するコミュニティ」である以上、管理責任が発生する

SNSでの投稿は、原則としてユーザー個人の責任に委ねられますが、企業が主催・運営するクローズドなコミュニティでは、企業が“コミュニティの管理者”として見なされる構造になっています。

たとえば以下のような特徴が一般的です:

  • メンバー承認制で、誰が参加できるかを企業が決めている
  • 利用ルールやガイドラインを企業が提示している
  • 投稿内容が外部に非公開であり、企業が把握・記録できる環境にある
このように、企業が参加者や投稿内容に対して一定の関与をしている以上、 問題が発生した際に「企業が把握していた/できたのに対応しなかった」と見なされるリスクが高まります。したがって、企業側には「何も対応しない」という選択が許されない場面も多く、リスクを未然に防ぐ設計と、平時からの備えが欠かせないのです。

2. トラブル発生時に企業が取るべき対応フロー

初動がカギ。落ち着いた対応と透明性が重要

トラブルが起きた際に重要なのは、感情に流されず、事実確認と判断を的確に行う初動対応です。

 やるべきこと

  • 客観的なログ記録
  • 方のヒアリング
  • 社内連携(広報・法務等)による対応方針決定

 やってはいけないこと

  • 事実確認前の謝罪・処分
  • 稿削除だけで終わらせる
  • 一方の言い分だけで判断する

想定QAとテンプレートで「備え」を可視化する

トラブル発生時に備えて、あらかじめ「ユーザー向けの想定QA」「社内向けの対応テンプレート・マニュアル」をそれぞれ準備しておくことで、対応における混乱や属人化を防ぐことができます。

まず、ユーザー向けの想定QAは、あらかじめ掲示板やガイドページ等で公開しておくことで、参加者自身がトラブル時の行動指針を確認しやすくなり、問い合わせの発生自体を減らす効果もあります。

QAの例

Q:他の参加者から攻撃的なメッセージを受けました。どうすればいいですか?

A:該当メッセージのスクリーンショットを添えて、通報フォームからご連絡ください。状況を確認のうえ、必要に応じて適切な対応を行います。

Q:運営から注意を受けましたが、内容に納得がいきません。

A: 運営は、すべての参加者にとって安心できるコミュニティを維持するため、公平かつ中立な立場から状況を判断しています。ご意見は丁寧に受け止めたうえで、必要に応じてやり取りを再確認し、あらためてご案内いたします。

このようなスタンスは、他の主要プラットフォームでも一般的です。たとえば:

  • Discordでは、モデレーションを行う際の中立的な判断基準と行動指針が明記されており、モデレーターは通報を受けて投稿を慎重に判断します(コミュニティガイドライン、モデレーター向けリソース)。
  • TikTokは、通報を受けた投稿に対して、コミュニティガイドラインに照らして判断し、必要に応じて再審査プロセスも提供しています(TikTokコミュニティガイドライン)。
  • LINEオープンチャットでは、「LINEコミュニティガイドライン」に基づき、不適切な投稿や迷惑行為への対応が行われ、参加制限や削除措置なども実施されます(LINEコミュニティガイドライン)。

    一方で、社内向けには、運営チームが利用する「対応文テンプレート」や「判断フロー付きマニュアル」を整備しておきましょう。
    これにより、担当者間で対応がぶれず、心理的負担を軽減しながら、一貫した判断と説明ができる体制をつくることができます。

    このように、ユーザーに公開する情報と、運営側が内部で参照するルールや対応基準は目的が異なるため、それぞれを明確に切り分けて準備することが、トラブル時の信頼維持と業務効率の両立につながります。

3. 炎上を防ぐ「平時の安心設計」5つのポイント

1. 参加時に「空気」と「ルール」をセットで伝える

ルールだけでなく、「歓迎される行動」「コミュニティの雰囲気」もあわせて伝えることで、新規参加者が適応しやすくなります。

初参加者向けガイド投稿
初めてコミュニティに参加するユーザーは、「どのような投稿が歓迎されるのか」「どこまで発言してよいのか」がわからず、不安を感じやすいものです。
そのため、参加直後に目に入るガイド投稿を設置しておくことで、安心して参加できる土台を整えることができます。

目的:

  • 投稿への心理的ハードルを下げる
  • 禁止行為を事前に伝えることでトラブルを未然に防ぐ
  • コミュニティの雰囲気や方針を共有し、一体感を生む

投稿内容の例:

  • 「このコミュニティでは〇〇に関する情報交換や意見交換を歓迎しています」
  • 「初めての方は、簡単な自己紹介をしていただけると他の方との交流がスムーズです」
  • 「ご不明点があれば、運営メンバーまでお気軽にご連絡ください」
  • 「以下のような投稿(他者への攻撃・営利目的の勧誘等)はご遠慮ください」

チュートリアル型のオンボーディングメッセージ
SlackやDiscordなどのチャット型コミュニティでは、初参加者に対して自動メッセージや固定投稿で行動をガイドする仕組みを用意すると、早期離脱の防止や定着率の向上につながります。

目的:

  • 初回参加者が「何をすればよいか」迷わず行動できるようにする
  • コミュニティの活用方法や企画を明示し、参加のハードルを下げる
  • トラブルを防ぎつつ、円滑な立ち上がりを促進する

メッセージ内容の例:

  • 「このチャンネルでは〇〇に関する話題を扱っています」
  • 「最初に #自己紹介 チャンネルで一言いただけると、他のメンバーからのリアクションが得られやすくなります」
  • 「毎週〇曜日に〇〇というテーマで投稿企画を行っています。ぜひご参加ください」
「運営への質問・報告は、@モデレーター もしくは運営窓口までご連絡ください」

初回ガイドやオンボーディング設計は、参加者の「安心感」や「参加しやすさ」を支える基本施策です。形式的なルールの共有にとどまらず、コミュニティの文化や温度感が伝わる設計を意識することで、より良い立ち上がりと継続的なエンゲージメントを促進できます。

2. ポジティブな文化を醸成する

  • 感謝リアクションを見える形にする
  • 模範的な投稿を「今週のベスト投稿」として紹介

3. 運営からの定期アナウンスで“空気”を維持

  • 雰囲気の良さを可視化(例:「最近○○な投稿が増えて嬉しいです」)
  • 注意喚起は柔らかく、前向きなメッセージで発信

4. 自浄作用を促す仕組みをつくる

参加者自身がコミュニティの健全性を保つための仕組みを導入します。

  • 通報ボタンの設置+匿名性担保
  • ボランティアモデレーター制度の導入
  • ユーザーによる称賛・推薦文化の活用

具体事例

あるスタートアップ企業では、参加者に「ありがとうポイント」を与える文化を醸成し、一定数ポイントを得たメンバーは“コミュニティサポーター”として運営と協働する仕組みを導入。これにより、参加者同士のポジティブな関係が育ち、トラブル発生率が大幅に下がったといいます。

5. “縛るルール”より“支える運用”を意識する

運営ルールを設ける際には、禁止事項を並べることだけに終始せず、「どうすれば参加者が安心して投稿・交流できるか」という視点で設計することが重要です。

「禁止する」より「支える」ルール設計の具体例:

課題

よくある禁止ルール

支える設計の例

批判的な言動への不安

「誹謗中傷は禁止」

「否定よりも、建設的な提案を歓迎します」

自己開示への抵抗感

「プライベートな話題はNG」

「安心して話せる場を守るため、個人情報の取り扱いにご注意ください」

宣伝投稿の懸念

「宣伝は禁止」

「成果や活動の紹介は、〇〇チャンネルで歓迎します。ただし営利目的の連投はご遠慮ください」

初心者への排他的な空気

「差別的な発言は禁止」

「誰もが最初は初心者です。お互いに学び合う場を目指しましょう」

このように、「何がダメか」だけでなく「どんな行動が推奨されるか」まで伝えることで、参加者にとって行動しやすい、前向きなコミュニティの雰囲気が生まれやすくなります。その積み重ねが、ユーザーとの間に信頼を生み出し、コミュニティそのものが企業の“信頼資産”として機能する基盤になっていきます。

まとめ:クローズドコミュニティは信頼資産。設計と覚悟がカギ

企業が主導するクローズドなコミュニティは、SNSよりも信頼度が高く、ファンの声を深く拾える空間です。一方でその分、運営者にはより高度な設計力と運用の責任が求められます。
このような場では、単なる炎上対策だけでなく、次のような視点が重要になります:

  • 目に見えないリスクを事前に想定し、体制を整える
  • 安心して本音を話せる雰囲気を育てる
  • 参加者が自然に行動しやすいルール設計を行う
  • 短期のマーケ施策でなく、中長期の信頼構築と捉える

本記事でも紹介したように、「何を禁止するか」だけでなく、「どんな行動が歓迎されるか」まで設計に落とし込むことが、参加者の安心感を支える土台になります。こうした積み重ねにより、企業とユーザーの間に築かれる“信頼”は、単なる場の維持を超え、ブランドそのものを支える「信頼資産」として機能していきます。

企業にとってコミュニティは「購入後の関係性を育む主戦場」となってきています。その価値を最大限に引き出すには、マーケティング視点とリスク管理、ユーザー起点の運営を両立するバランス感覚が求められます。

アディッシュは、10年以上にわたりオンラインコミュニティやSNSのモニタリングを通じて、企業のブランド価値を守る支援をしてきました。
 誹謗中傷や炎上への備え、ルール設計、投稿監視、ユーザー対応方針の整理など、数多くの課題に対応した実績とノウハウがあります。

 ・「そもそも規約をどう作ればいいかわからない」
 ・「投稿の監視が追いつかず、判断に困っている」
 ・「自社で体制をつくるのが難しい」

 このようなお悩みがある方は、ぜひお気軽にご相談ください。

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この記事を書いた人

アディッシュのモニタリングソリューション「MONI」

ライター

アディッシュのモニタリングソリューション「MONI」

インターネットコミュニティ運用、SNS運用、リスク対策に役立つ情報をお届けします。投稿監視に関連する最新動向や運用設計のポイントをご紹介します。