2022年度には1,377億円だった日本のメタバース市場。2027年度には2兆59億円にまで及ぶとされています。
・自社ブランドの仮想空間をメタバース上に構築し、ユーザーが自分のアバターを使って商品を試着できる様にする。
・限定アイテムを仮想通貨で購入可能にする。
・遠隔教育やトレーニングでの没入型学習体験を提供する。
・ライブコンサートを開催し、アーティストとファンがバーチャル空間で交流できる仕掛けを作る
等々、企業による、メタバースの活用は広がりを見せています。
こうした広がりを受けて、総務省が、安心・安全なメタバースの実現のための、原則を含む資料を発表しました。
当社も、企業によるメディアやコミュニティの運用支援を行う上で、関わる機会も多く、当社のクライアントに提供する意味も込めて、原則の部分を抜粋して、ご紹介します。
本記事では抜粋して要約をするため、ぜひ詳細や正確な情報に関しては当該資料(※1)をご覧ください。
※1当該資料
安心・安全なメタバースの実現に関する研究会 報告書 2024
https://www.soumu.go.jp/main_content/000974751.pdf
報告書の概要
メタバース市場や、国内・海外の動向、本記事で取り挙げるメタバースの原則、メタバースに関する技術動向、メタバースの利活用事例、今後の検討事項等が、掲載されています。
報告書内の原則では、ユーザーが安心・安全にメタバースを利用していくために、仮想空間そのものの提供を行うメタバース関連サービス提供者やプラットフォーマー(※2)と、ワールド(※3)提供者の役割が重要とされています。
原則は両者が参照すべきものとして、作成の背景や位置づけを説明した前文と、原則から構成されています。
さらに、両者に限らず、ユーザー、プラットフォーム内でコンテンツの創作や提供を行う者、国や地方自治体・業界団体を含むルール整備に関わる者、ユーザーのリテラシー向上に関わる者も参照されることを期待されており、多くのステークホルダーが関係するものとなっています。
※2「プラットフォーマー」:報告書内では、プラットフォームを提供する事業者をプラットフォーマーと呼ぶとされています。メタバースを構築するための機能や素材、法則やルールなどを提供する者、ユーザの認証・管理やアイテム等の管理、コミュニケーション機能、契約・取引などの基盤的サービスを提供する者、すぐに利用できるようにメタバースの基本的なサービス自体を運営・提供する者など、多岐にわたる事業者を位置づけています。
※3「ワールド」:報告書内では、プラットフォーム上で構築・運用される、「メタバースの個々の世界」とされています。ワールド提供者は、プラットフォーマーと契約(有償・無償を問わず、利用規約への同意等も含まれる)し、プラットフォーム上にワールドを構築して提供する者。なお、これをビジネスとして行う者については「ワールド提供事業者」としています。プラットフォーマー自身がワールドを構築して提供する場合もあると位置づけられています。
報告書の内容
前文
メタバース上での出来事や価値観が仮想空間のみならず物理空間にも影響を与え、両空間の民主的価値を損なう可能性を防ぐことが目的とされています。
そのために、民主的価値の主な要素3つを、国際的な共通認識とした上で、メタバースの将来像の醸成を図ることが重要とされています。
主な要素3つとは
① メタバースが自由で開かれた場として提供され、世界で広く享受されること
② メタバース上でユーザが主体的に行動できること
③ メタバース上での活動を通じて物理空間及び仮想空間内における個人の尊厳が尊重されること
その上で、原則の位置づけについて、上述した様に、あらゆるステークホルダーが参照すべきと記載されています。
文中では、メタバース関連サービス提供者の取組の大きな柱として下記2つが位置付けられています。
①社会と連携しながら更なるメタバースにおける自主・自律的な発展を目指すための原則
②メタバース自体の信頼性向上のために必要な原則
これら2つについて、さらに掘り下げて記述されています。
<メタバースの自主・自律的な発展に関する原則>の記載内容抜粋
オープン性・イノベーション
自由で開かれた場としてのメタバースの尊重
サービス提供者は、様々な属性のユーザによる参画を歓迎し、ユーザーの自主性を尊重したサービスの開発・運営を行うことが期待される。
自由な事業展開によるイノベーション促進、多種多様なユースケースの創出
社会課題の解決にも寄与することから、創意工夫・自由な事業展開によって、イノベーションの促進・ユーザーとの多様なユースケース創出が期待される。
アバター、コンテンツ等についての相互運用性の確保
サービス提供者はメタバースサービスの特性に応じて、アバターやコン テンツ等を複数プラットフォーム間で利用可能となるよう、相互運用性の確保に努めることが期待される。
知的財産権等の適正な保護
利用規約やコミュニティガイドライン等を通じて、知的財産権等の権利の適正な保護の重要性について、ユーザへの浸透を図るとともに、UGC の創作・利用に関するルール等について明示することが期待される。
多様性・包摂性
物理空間の制約にとらわれない自己実現・自己表現の場の提供
メタバース上でユーザが年齢、性別、居住地等の属性や制約にとら われることなく活動し、自己実現・自己表現につなげることができるような開発・運営等を行 うことが期待される。
様々な国・地域、ユーザ属性等による文化的多様性の尊重
様々なユーザの属性に配慮するとともに、属性の異なるユーザ同士であっても互いに尊重し合う意識を醸成することにより、文化的多様性が尊重されることが期待される。
多様な発言等の確保(フィルターバブル、エコーチェンバーといった問題が起きにくいメタバース)
提供するメタバースサービスの特性に応じて、ユーザによる多様な発言等と、それらへの接触機会が確保される様に開発・運営等を行うことが期待される。
障がい者等の社会参画への有効な手段としての活用
物理空間での移動やコミュニケーション等の活動が難しい人にとっても、就学、就労、他者との交流等の場になり得ることから、提供するメタバースサービスの特性に応じて、社会参画への有効な手段として活用がなされるよう開発・運営等に努めることが期待される。
メタバースへの公平な参加機会の提供・誰もが使えるユーザビリティの確保
多様かつ柔軟なアクセス方法を通じて、ユーザに対して公平な参加機会を提供するとともに、その提供するメタバースサービスの特性に応じて、誰でも使いやすいようなユーザビリティを確保することが期待される。
リテラシー
ユーザのメタバースに対する理解度向上の支援
ユーザの ICT リテラシー向上の支援
コミュニティ
コミュニティ運営の自主性の尊重
コミュニティ発展の支援
ユーザの自主性を尊重するとともに、コミュニティの更なる発展に向けて、ユーザ同士の交流が円滑に実施されるよう支援することが期待される。
<メタバースの信頼性向上に関する原則>
透明性・説明性
サービス利用時の保存データ(期間、内容等)及びメタバース関連サービス提供者が利用するデータの明示並びにそれらのユーザへの情報提供
利用するデータや、取得・保存したデータの管理方法・体制についても、視認性の高いビジュアルや平易な言葉を用いて、ユーザーの目に触れやすいところに掲示することが期待される。
提供するメタバースの特性の説明
メタバースには多様なものが存在し、ユーザの利用形態も様々であることから、提供するメタバースサービスの特性について、視認性の高いビジュアルや平易な言葉を用いてユーザに対し説明することが期待される。
メタバースの利用に際してのユーザへの攻撃的行為や不正行為への対応の説明
トラブル抑制と、コミュニケーション促進のため、問題となる行動と、その行動を採った際の対応について、可能な限り具体的に説明することが期待される
アカウンタビリティ
事前のユーザ間トラブル防止の仕組みづくりや事後の不利益を被ったユーザの救済のための取組
視認性の高いビジュアルを活用して注意喚起し、サービス内の巡回やコンテンツモデレーション等のモニタリングを実施すること
ロック・ミュート機能等の技術的なユーザー保護機能を実装すること
ユーザーからの通報窓口を設置するなど、トラブルが発生した場合に迅速に対応できる体制を構築すること
等が期待される。
他のユーーザやアバターに対する誹謗中傷及び名誉毀損の抑制
利用規約やコミュニティガイドライン等を通じてユーザー間、ユーザーとメタバース関連サービス提供者の間で当該メタバースサービスに関する共通的な理念を形成し、これに基づき必要な措置を講じることが期待される。
ユーザー等との対話を通じたフィードバックを踏まえた改善
ユーザーや幅広い関係者からの意見の収集によるフィードバックの機会を得て、開発・運営等の改善につなげることが期待される。
子ども・未成年ユーザへの対応
子どもにも分かりやすい表現にすること
コンテンツモデレーション等のモニタリングを実施すること
フィルタリング等の保護機能を実装すること
ペアレンタルコントロールの実装等、保護者が関与できる仕組みを構築すること
等が期待される。
プライバシー
ユーザの行動履歴の適正な取扱い
どのような行動履歴を取得するか明示し、行動履歴を利用する場合は、利用目的を併せて明示して、ユーザから同意を得ること
取得する行動履歴は、利用に必要な範囲にとどめること
行動履歴の管理方法や管理体制について明示すること
等が求められる
ユーザとアバターとの紐付けにおけるプライバシーの尊重
ユーザーとアバターの意図しない紐付けにより、本人の意に反して情報が公開されることがないよう、利用規約やコミュニティガイドライン等での考え方の明示や、プライバシーを侵害するような行為をしたユーザに対し適切な対応をとることが期待される。
メタバースの利用に際してのデータ取得、メタバースの構築に際しての写り込み等への法令遵守等による対処
物理空間を撮影したデータを利用する場合や、ユーザによってメタバース上でのスクリーンショットが行われる場合を考慮して、その撮影データにおける人物等のプライバシー情報等の写り込みに対処することが期待される。
アバター(実在の人物を模したアバターを含む)の取扱いへの配慮(知的財産権、名誉毀損及びパブリシティの観点を含む)
実在の人物を模したアバターを無断生成・利用した場合には、その容ぼうの実態等に即して肖像権又は知的財産権の侵害が起こり得るほか、その利用の形態によっては実在の人物に対するプライバシー侵害や名誉毀損も起こり得ることを通知する。
・著作物や肖像、声の利用等について、利用規約やコミュニティガイドライン等で、基本的な考え方や、留意すべき事項、許諾に関する必要となる手続、権利侵害が確認された場合の取り得るべき対応等を明示すること。
・名誉毀損や権利侵害にあたる可能性のある状況が確認された場合には、速やかに利用規約やコミュニティガイドライン等に沿った対応をとること。
等が求められる
セキュリティ
メタバースのシステムのセキュリティ確保
外部からの不正アクセスへの対処等を含めた、下記の様な措置を講じることが期待される。
・登録時の本人確認システムを含む必要な措置の導入・強化に向けた検討を行うこと
・ログイン時の認証システムの導入・強化に向けた検討を行うこと
・セキュリティリスクに対応するための体制を構築すること
・情報セキュリティポリシー等を策定すること
メタバース利用時のなりすまし等の防止
メタバース関連サービス提供者は、なりすまし等によりユーザに不利益が生じることを防ぐため、下記の様な措置について検討・導入することが期待される。
・利用規約やコミュニティガイドライン等でアバターの模倣等について、容ぼうや声など模倣の対象となり得る要素に関する考え方等を明示すること。
・なりすましと判断をした場合、当該アバターのアカウントを速やかに凍結するなど、被害の拡大防止のために適切な対応をとること。
まとめ
今回はあくまで原則ではありますが、関連サービスを提供する事業者の方々は、一度目を通すことをオススメします。
今後も拡大するメタバース市場、原則に則ったガイドラインができ、対応に迫られる可能性も決して低くありません。
コンテンツモデレーションや本人確認等、自社で完結することが難しい場合は当社の様な、経験のある企業にぜひご相談ください。