Blog

2025.10.17

経営リスクとしての評判──上場企業に学ぶレピュテーションリスク管理と炎上対策

はじめに|なぜ「評判」が経営リスクになるのか

現代のビジネス環境において「企業の評判(レピュテーション)」は、成長と存続を左右する重要な無形資産です。SNSをはじめとするデジタルメディアの普及により、情報は瞬時に拡散されます。わずかな出来事が数時間で炎上へと発展し、企業価値を大きく揺るがすリスクとなり得ます。

特に上場企業にとっては、株価の下落や取引先との関係悪化など、経済的損失に直結する重大な影響をもたらします。ネガティブな口コミや風評が株価低迷の一因となった事例も報告されており、その影響は決して軽視できません。

さらに、上場企業は株主・投資家や規制当局からの厳しい視線にさらされており、透明性や説明責任を果たすことが強く求められています。金融庁や東京証券取引所が定めるコーポレートガバナンス・コードでも、取締役会がリスク管理体制を整備・監督する責務が明記されており、レピュテーションリスクは経営上の重大リスクと位置付けられています。

1. レピュテーションリスクとは

レピュテーションリスク(評判リスク/風評リスク)とは、企業やブランドに対する社会的評価が悪化し、その結果として信用やブランド価値が損なわれ、経済的損失につながる可能性を指します。ここでの「評判」とは、顧客・取引先・株主・従業員・地域社会などステークホルダー全体が抱く評価の総体であり、製品・サービスの品質や価格だけではなく、経営者の発言、従業員の行動、コンプライアンス、環境・社会への配慮、労務環境、情報管理といった企業活動全般が評価対象になります。

レピュテーションリスクを悪化させ得る主な要因

  • 内部不祥事:経営陣や従業員による横領、情報漏洩、不適切なSNS投稿など
  • 製品・サービス問題:製品欠陥、リコール、品質データの偽装など
  • 労務トラブル:ハラスメントの発覚や長時間労働の常態化
  • 不適切な表現:差別的な発言や広告表現による炎上
  • サイバー事故:ハッキングや情報流出、システム障害
  • 根拠なき風評:事実無根のデマや誹謗中傷の拡散

レピュテーションリスクは、財務リスクやオペレーショナルリスク(操作ミス・自然災害等)とは性質が異なり、定量化が難しいのが特徴です。「信頼」「ブランド価値」といった定性的要素が絡むため影響度の把握が難しい一方、一度顕在化すると、売上減少や株価下落に加え、長期的な信用失墜や人材流出など深刻な影響を及ぼします(品質不正や不正取引の露見後、長期低迷に陥った事例も報告されています)。

さらに、潜在的な火種がSNSを契機に急速に顕在化する点にも注意が必要です。社内で把握していた軽微な問題でも、対応を誤れば一気に拡散・炎上し、企業側で情報をコントロールすることは極めて困難になります。

だからこそ、レピュテーションリスクマネジメントの核心は「火種を顕在化させないこと」にあります。平時から潜在リスクを洗い出し、早期に対処する仕組みを整えておくことが、評判悪化を防ぐ最も有効な手段なのです。

2. 上場企業におけるレピュテーションリスクの実例

レピュテーションリスクは理論上の概念ではなく、実際に株価や企業活動に大きな影響を与えてきました。ここでは、研究や報道で確認されている実例を紹介します。

① ネット炎上と株価下落(154件の実証研究)

日本証券業協会がまとめた研究(武田史子・森継哉, 2019)では、2009〜2018年に発生した上場企業のネット炎上154件を分析しました。その結果、炎上後には株価が短期的に有意に下落する傾向が確認されています。さらに「謝罪」「反論」「削除」といった企業の対応内容によって、その後の株価の下落幅や回復のスピードに差が見られることも示されました。これは、ネット炎上が単なるイメージ低下にとどまらず、投資家心理を通じて市場に直接影響を及ぼすことを実証的に示しています。

参照:日本証券業協会 ネット炎上が株式市場に与える影響についての研究

② 株価下落率の平均値(慶應大学による77件の分析)

慶應義塾大学・田中辰雄教授による研究(日本シミュレーション&ゲーミング学会第82回全国大会発表、2017年)では、2012〜2015年に発生した上場企業77件の炎上事例を分析し、株価変動を調査しました。

その結果、中規模以上の炎上が影響した株価の下落率の平均は約0.7%、大規模な炎上では最大で5%程度に達するケースが確認されています。この研究からも、炎上が企業の経済的損失につながり得ることが明らかになっています。

参照:田中辰雄「炎上の株価への影響:日本のケース」日本シミュレーション&ゲーミング学会第82回全国大会論文集(2017年)

③経営トップの発言をめぐる炎上(2024年)

2024年には、ある上場企業の経営トップがインタビューで外国人労働者の受け入れに言及した発言が一部で切り取られ、SNS上で不買運動が呼びかけられる事態となりました。
この炎上はブランドイメージに大きな影響を及ぼし、報道の中には株価への影響に言及するものもあります。経営トップの発言ひとつが社会的論争を招き、企業全体の評価や市場での信頼に影響し得ることを示した事例といえます。

これらの事例から分かるのは、炎上は一過性の話題で済まないという点です。SNSの拡散スピードは投資家心理や株主の判断に直結し、株価・取引先・従業員採用といった事業活動全般に影響を及ぼします。したがって企業にとってレピュテーションリスクは「広報部門だけの課題」ではなく、経営全体で取り組むべき重大リスクなのです。

3. 上場企業が実践するレピュテーションリスク管理

深刻なレピュテーションリスクに備えるため、上場企業では以下のような仕組みを整備しています。共通するのは、ガバナンス・危機対応・モニタリング・予防策を総合的に組み合わせる点です。

ガバナンス体制の強化

取締役会を中心に、レピュテーションリスクを含む経営リスクを統括。監査役や社外取締役の牽制機能、IR・広報部門との連携により、経営層へ情報が迅速に共有される体制を構築しています。これにより「トップの暴走」を防ぎ、組織全体でレピュテーションリスクを管理します。

危機管理マニュアルと初動対応

報告経路、対策本部設置の基準、プレスリリース発信のタイミングなどを明文化し、定期的な訓練で実効性を検証。例えば「発生後1時間以内に役員へ報告、24時間以内に公表」といったルールを定め、初動の遅れを防いでいます。

SNS・メディアモニタリング

SNS、口コミサイト、掲示板などを常時監視し、AIによるアラートや外部サービスを活用。平時から兆候を検知できる仕組みを整えることで、素早い対応につなげています。

予防施策の徹底

広告表現の事前チェックやSNS運用ガイドラインの策定、承認フローの整備を通じて「火種」を未然に防止。さらに従業員研修や事例共有を行い、全社的にリスク感度を高めています。第三者による監査や表現チェックで盲点を補う取り組みも広がっています。

4. 実践ポイント|リスクを最小化するために

ここまでの事例を踏まえ、上場・非上場を問わず企業が押さえておくべきポイントを整理します。

モニタリングの体制の整備

SNS検索やアラート設定など、小規模でも実施できる方法を取り入れ、平時から兆候を把握できる仕組みを用意します。リスクの「早期発見」が、被害を最小限に抑える第一歩です。

初動対応の明確化

炎上や不祥事が発生した際は「最初の24時間」が勝負です。責任者・対応内容・外部への公表基準をあらかじめ定め、速やかに情報を整理・発信できる体制を整備します。沈黙は憶測を呼び、リスク拡大を招く要因になるため、迅速な一次対応を徹底します。

ステークホルダー対応と信頼回復策

危機発生後は、顧客・取引先・株主・従業員など多様なステークホルダーへの誠実な対応が不可欠です。「隠さない・嘘をつかない・逃げない」を原則に、経営トップが説明責任を果たし、再発防止策を具体的に提示します。一貫した情報発信と透明性のあるコミュニケーションが、信頼回復の鍵となります。

シナリオプランニングの実施

製品リコールやSNS炎上、内部不正など、複数のケースを想定した訓練を定期的に実施します。模擬訓練を通じて報告・判断・発表の流れを確認し、実際の危機発生時に迷わず動ける体制を築くことが重要です。

5.BtoB/BtoC問わず企業が学べること

レピュテーションリスク管理は、上場企業だけでなくあらゆる企業にとって避けて通れない経営課題です。SNS時代では企業規模に関わらず炎上のリスクが存在し、スタートアップや中小企業でも信用失墜に直結する事態が起こり得ます。実際に、中小企業の不適切投稿が拡散され、営業停止に追い込まれた事例も報告されています。

大企業が実践するモニタリングや危機対応の仕組みをそのまま導入するのは難しくても、中小企業向けに縮小版を取り入れることは可能です。たとえば、

  • 専門ツールを導入せずに「毎日SNS検索を行う」
  • 「Googleアラート」で自社名を検知する
  • シンプルな危機対応フローチャートを用意する

といった工夫だけでも初動対応の質は大きく変わります。重要なのは「レピュテーションリスクは他人事ではなく、自社全体で管理すべきもの」という視点を持つことです。

さらに、評判悪化のリスク管理は経営戦略の一部として捉える必要があります。評判を守ることは単なるコストではなく、従業員のエンゲージメント向上、サービス品質の改善、顧客からの信頼獲得といった「攻めの効果」も生みます。逆に評判を軽視する企業は人材や顧客から選ばれなくなり、長期的成長が望めません。

上場企業がレピュテーションリスクを経営に組み込んでいるのは、「信頼の積み重ねこそが企業価値であり、中長期の競争優位を左右する」と理解しているからです。この考え方は企業規模にかかわらず通用します。レピュテーションリスク管理を全社横断で実践することこそが、企業の持続的な成長戦略の一環なのです。

まとめ|レピュテーションリスクは経営戦略の一部

「評判」は、顧客ロイヤリティやブランド、人材確保などあらゆる面に影響を与える、企業にとって最大級の無形資産です。上場企業はその重要性を踏まえ、ガバナンス強化、透明性ある情報開示、迅速な初動対応に力を入れています。実際、一度評判が傷つけば、売上減少や株価下落だけでなく、取引停止や人材流出、資金調達難にまで波及し、企業存続の基盤を揺るがしかねません。事例が示す通り、レピュテーションリスクは極めて深刻な経営課題です。

しかし、適切な備えがあれば最悪の事態を防ぎ、被害を最小限に抑えることは可能です。モニタリング体制の構築、危機管理マニュアルの整備、社員教育などの取り組みは企業規模を問わず導入でき、実行にはトップのリーダーシップと全社的な継続努力が不可欠です。レピュテーションリスク管理は「守りのコスト」ではなく、信頼を積み上げて持続的成長を実現するための戦略的投資と位置づけるべきでしょう。

アディッシュでは、企業の風評被害や炎上リスク対策を支援するモニタリングソリューション「MONI」を提供しています。
MONIは24時間365日体制でSNSやコミュニティサイト上の投稿を監視し、ソーシャルリスクの兆候を早期に検知。迅速な対応を可能にし、企業の健全なコミュニケーション環境づくりをサポートします。「評判」は企業にとって最大の資産です。アディッシュはSNS監視やネット風評被害の早期発見を通じて、その資産を守る体制づくりを支援してまいります。

Writer

この記事を書いた人

アディッシュのモニタリングソリューション「MONI」

ライター

アディッシュのモニタリングソリューション「MONI」

インターネットコミュニティ運用、SNS運用、リスク対策に役立つ情報をお届けします。投稿監視に関連する最新動向や運用設計のポイントをご紹介します。