ネット上のリスク対策で必ずぶつかる問題
ソーシャルリスニングの一環として、ネット上のリスクのモニタリング(投稿監視)について考えるとき、必ずぶつかる問題があります。事業活動を行う限り、ネット上でのネガティブ情報の発生・拡散リスクは常に存在し、ネット上にあるすべての投稿のチェックは不可能であるという問題点です。
では、これらの問題にどう対処していけばよいのでしょうか?
要素を分解して考えていきましょう。
企業に対して、ネット上で否定的な投稿が集中して発生することの発端となり得るものとしては、以下が考えられます。
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1.自社の事業活動や公式発信
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2.トップや役員の行動・発信
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3.従業員の行動・発信
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4.商品、サービス自体+顧客対応への不満
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5.顧客、取引先など自社以外からの飛び火
これらに炎上のきっかけとなるような内容が伴ったときに、企業に対する常日頃の印象や理解なども作用して、炎上へと発展する可能性が出てきます。 炎上のきっかけとなりやすい内容としては、例えば以下のようなものがあります。
炎上のきっかけになりやすい内容
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差別的な発言
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犯罪や反社会的な行為の告白や肯定するような内容
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やらせ、自作自演
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悪ノリ、悪ふざけ
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職務上の立場にふさわしくないと思われるような行動や発言
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暴言、強い調子での批判、逆ギレ
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上からモノを言ったり、人をバカにしていると取られる発言
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届く相手を考慮できていない言い回し (さまざまな立場や価値観、話そうとしている相手以外の人の存在の考慮不足)
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食や身体や生活の安全を脅かすと思われるような内容
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不誠実と取られる対応
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対応上のミス
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不良品、事前の期待値から大きく外れた商品・サービス
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なりすまし
上記の炎上のきっかけになりやすい内容については、特に自社の関係者の発信の際にはそもそも気をつけるということが大事ですが、企業運営をしている限り日々発生する可能性があり、リスク発生をゼロにすることはできません。
リスクとどう付き合うか?
状況の変化によって新たに発生するリスクも含め、問題発生の可能性そのものをなくすことは非常に難しいと言えます。
そのため自社に関わる内容について、日常的にネット上で何を言われているか「傾聴」するためのモニタリングをすることがキーポイントとなります。 以下に「モニタリング」と「事前対策」、「事後対策」の関係性についてまとめ、どのようにモニタリングを活用していくかについて整理しました。
❶事前対策
事前に注意することで防げる範囲内の問題への対応で、発生リスクを最小化するのが目的です。例えば以下のようなことが考えられます。
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ソーシャルメディア利用指針を作成し従業員へ浸透
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ソーシャルメディアリテラシー研修
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自社の情報発信の内容や方法の改善
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自社が気をつけるべきポイントの社内情報共有
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事例を元にした従業員同士のワークショップ実施
❷モニタリング
日常的に投稿をモニタリングできる体制をつくり、事前対策を実施してもゼロにならないリスクや、新たに発生するリスクについて対処します。問題そのものの発見の迅速化も含め、リスク対策におけるモニタリングは以下の①~③のように3つの意味を持ちます。
❶迅速な問題発見
24時間365日体制を敷き、できる限り常時モニタリングを行える環境を整え、問題発生時に迅速に気付けるようにします。
❷事前対策に反映
モニタリングを行う中では、問題に至らぬまでも、事前対策に反映することが必要な内容が出てきます。
例えば関係者による不適切な内容の投稿があれば、まず事実確認をし、個別に注意が必要であれば行い、再発リスクがある内容であれば注意事項として周知・ 研修することなどが必要です。
また、自社がネット上で普段どう思われているかを把握し、自社の商品・サービスへの理解が正しくないユーザーが多ければ、理解が正しくなるように情報発信の内容や方法を改善していく施策を行います。
ここで重要なのは、深刻な問題が起こっていないから「何も問題が無い」と結論付けるのではなく、ヒヤリハット事例(※)を把握することを重要視し、問題の発生リスクそのものを最小化していく動きを意識することです。
❸事後対策の検討
モニタリングを行う中で、自社にはどのようなリスクが存在し、問題投稿の発生パターンとその影響にはどういったケースが想定されるかを把握します。把握できているケース別に自社での基本的な対応方針を常日頃から検討し、明確にしておきます。
❸事後対策
実際に問題のある投稿が発生した場合や、炎上が発生してしまった場合の対応です。
1.投稿発見
投稿の影響度や具体的な対応の要不要を判断
2.内容分類
投稿がどういった位置付けにあたるのか検討
3.事実確認
問題投稿に対する発生原因の確認
4.投稿動機把握
投稿がどういった背景と動機で行われたかの予測・把握
5.対応案と反応予測
上記2、3、4から対応案と反応を予測
6.対応実施
5に基づき、公式な情報発信・投稿ユーザーへの対応・具体的な問題改善・追加対応の検討
詳細は別の機会での解説しますが、以上が手順となります。
迅速な対応に必要な3つの条件
迅速な対応の実現には以下の3つの条件が必要です。
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1.迅速な問題投稿の発見ができる体制があるか
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2.リスク想定ができていて、問題発生ケース別に対応方針を固めているか
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3.問題発生時の連絡体制と対応内容の決定手順が明確化できているか
3つの条件のうち、いずれが欠けていても迅速な対応は困難です。一方で、これらの3つが揃っていれば、もしも全く予測不能の問題が起こった場合も、少なくともそのときに対処可能なベストな対応ができるでしょう。
ネット上で注視すべきリスクや問題発生時の対応について、「これをそのまま適用すればどの企業においても正解」という万能の方法は存在しません。 企業によって注視すべきリスクの種類や状況は異なります。
また、発生した問題へ企業が行った対応への人々のリアクションも、同じような対応を行ったとしても異なります。
事前対策の為にも事後対策の為にもモニタリングを行い、「見渡しのきく状況」にすることが、まずはじめの一歩となります。
すべての投稿監視は不可能…効果的な方法は?
そもそも技術的にもコスト的にも「ネット上のすべての投稿のチェックは不可能」です。また、知名度の高い企業や商品・サービスであれば、すべてをチェックしきれないほど多くの投稿が存在するでしょう。
では、同じコストにおいても効果的にモニタリングを行うにはどうすればよいでしょうか?
ネット上の投稿を「企業名」「ブランド名、商品・サービス名」などのキーワードを用いて、専用のソーシャルリスニングツールで検索する方法は知られていますが、さらに具体的には専用ツールを用いながら、以下①、②のように、2つの手法を併用する方法が、同じコストにおいても効果的にモニタリングを行う方法と考えられます。
2つのモニタリング方法の併用
①緊急時:急増時チェック ⇒ 投稿急増時のシステムアラート+急増時の内容確認
②平常時:内容分類 ⇒ 一定の判断基準にもとづき、日々の投稿を分類し把握
①緊急時
急増時チェック
通常時の自社に関する投稿数に対し、事前に設定した投稿数の値を上回った場合にシステム的にアラートが飛ぶようにして、24時間体制で投稿数の異変に気づけるようします。
当然、全く問題のないポジティブな内容や、直接的に関係のない内容で投稿が急増することもありますので、現実的には24時間体制でのモニタリング専門チームが存在しないと実効性のある運用は難しい面もあります。
⇒ 数量的な異変の初期段階に対し網を張ります。 |
②平常時
内容分類
不満・クレームの投稿を見ていくなど、一定の判断基準を事前に定めて分類を行っていき、自社について日々何を言われているかを把握します。
自社に関する投稿量が多い場合は、検索を行うメインキーワードに対し、目視チェック対象の投稿を絞り込むためのサブキーワードを設定します。例えば、飲食業において苦情について拾いたい場合に、「ひどい」や「汚い」を設定するのです。さらにサブキーワード毎に目視チェック時の優先順位を設けることができれば、コスト上の問題で実際に目視チェックできる量が限られている場合も、重要度の高い可能性をのある投稿を優先的にチェックできるため、同じコストあたりの目視チェックの有効性を高めることができます。
⇒ 数量だけでは追えない、個々の投稿内容自体に網を張ります。 |
①、②はそれぞれ別の強みを持ちます。「すべての投稿のチェックは不可能」という事実が現実としてあるときに、この2つのモニタリング方法を併用することは、限られたコストで有効なモニタリングをするための効果的な方法と考えられます。
今回手始めにリスク対策についてまとめましたが、今後マーケティングにおける活用方法について、別の機会にご紹介できたらと思います。
※ヒヤリハット
ハインリッヒの法則(労働災害の聞き取り調査による法則)で語られる概念で、1つの重大事故の陰に29倍の軽度事故と、300倍のニアミス(ヒヤリハット)が存在する。ニアミスが続くと事故にもつながる可能性があるため「ヒヤリ・ハット」の事例を記録し蓄積または共有することによって、重大な災害や事故の発生を未然に防止する活動が工場の現場などで行われています。
次回のリポート「従業員投稿モニタリングでリテラシー向上とリスク軽減」もあわせてご覧ください。