前回(「クレーム投稿とSNS担当者の心構え」)は、企業が顧客との接点として運営しているソーシャルメディア上でのクレーム対応についてお話しました。
その中で、クレームには誠意をもって対応すべきということを詳しく述べましたが、クレーム対応後の当該投稿にどう対処すべきかについては触れませんでした。
今回は、クレーム投稿の対応後、当該投稿をそのまま残すべきか、それとも削除すべきかについて考えていきたいと思います。
クレーム投稿者への対応後の投稿削除はアリ?
顧客からのクレーム投稿は、場合によっては他の顧客に対して大きなインパクトを与えます。
昨年、ある外食チェーンで使用されている食器が大変不衛生な状態であるというクレームが、その外食チェーンが運営するFacebookページに写真付きで投稿されて大きな話題になりました(いわゆる「炎上」です)。
このような投稿が、自社で運営するソーシャルメディアに寄せられると、それをそのまま掲載し続けることに対して非常に抵抗を感じるものです。
ブランディング戦略としても、自社のマイナスになる情報をわざわざ宣伝するかのような状況に、強いイラ立ちを感じるかもしれません。
しかしながら、これを安易に削除してしまうことは、決して良い結果をもたらしません。
たとえそれが個別の対応をおこなった後であっても、一方的に投稿を削除することは、ソーシャルメディアではアンフェアなことだと受け止められてしまいます。そして、さらなる非難を招いてしまう可能性が大きいです。
それでは、具体的にどのような対策があるのでしょうか。
企業が取り組むべき対策その①
公式発表では対応策や手順を十分に講じておく
まずは、顧客が十分に納得できる対応をすべきです(※前回参照)。
その上で、影響範囲が大きい内容であれば、その件を公式に発表するか否かを社内で検討すべきでしょう。
公式に発表するのであれば、どのような対策を講じるかも含めて発表しなければ、顧客への信頼は当然回復できません。
そこまですれば、仮に過去の投稿にネガティブな情報が残っていても、ダメージを大幅に軽減できるでしょう。
批判・クレーム対策は事業戦略で事前に設計を
ソーシャルメディアでは、投稿はログとして残り続けたとしても、ストック(蓄積)されるというよりも、フロー(流れ)としての側面が強いものです。人々がいったん納得してしまえば、それほど後には引きません。
逆に、顧客にとって納得感のある対応でなかった場合、ログの有無にかかわらず、いつまでもくすぶり続け、ちょっとしたきっかけで再燃します。企業としては、批判を受けてでも方針を変更できない場合もあるかと思いますが、批判にさらされるリスクをあらかじめ可能な限り想定して、対応策を用意しておくべきでしょう。
覚えておきたいのは、仮に自社で運営するソーシャルメディアから当該投稿を削除したところで、インターネット上ではすでにその情報が出回ってしまっている場合が多いということです。
そうなると、わざわざ「隠ぺいだ!」という批判にさらされるリスクを取ってまで当該投稿を削除しても、それに見合う効果が得られるとは思えません。
企業が取り組むべき対策その②
予測できぬ心配より社内ガバナンスを機能させる
ソーシャルメディアは、実社会を映す鏡です。
ソーシャルメディアの中だけで起こることよりも、実社会で起きたことがソーシャルメディアで議論を巻き起こす、という流れが一般的です。
だからこそ、「ソーシャルメディアにクレームを書かれたらどうしよう」と心配するよりも、そもそもクレームが発生しないように社内のガバナンス(統治)を機能させることが重要です。
というのも、自社が運営するソーシャルメディア以外でも、ウェブ上にはいくらでもクレームを書く場所はあるからです。むしろ、自社のメディア以外に書かれてしまうと、企業側としては個別の対応をすることもままならず、より大きなダメージにつながる可能性があります。
クレームゼロより「顧客満足度アップ」を
つまり、ソーシャルメディアに書かれてしまうのが避けられないなら、せめて自社で運営するところに書き込んでもらって、状況がちゃんと把握できる状態にする、というのが正しい戦略です。
最も重要なことは、そもそもクレームを引き起こさないように、常に顧客を意識した製品・サービスの提供を心掛けることです。それこそが、根本的な解決策となります(これは、ソーシャルメディア運営担当者の独力では難しいので、全社での取り組みが欠かせません)。
もちろん、それでもクレームをゼロにすることはできないでしょうし、クレームをなくすことが目的化して、本来のサービスや製品レベルを低下させるようなことがあっては本末転倒です。
「いかにクレームを表面化させないか」ではなく、「いかに不満を持つ顧客を減らせるか」に注力をするのが、本来のガバナンスの役目でしょう。
ロイヤルカスタマー率が高いクレーム投稿者
これらの対応は、マーケティング・広報・商品企画・製造・カスタマーサポートなど、さまざまな部門にまたがるソーシャルメディア戦略の一部として、さらには事業戦略の一部として位置付けられるべきです。
ソーシャルメディアは特別なものではなく、顧客との接触チャネルの一つであると捉えて、一貫性のある事業設計をすることで、より効果の高い運用ができるようになるのではないでしょうか。
最後に、大前提として、顧客がクレームを言ってくれる状態は大変ありがたいことです。
わざわざクレームを言ってくれる顧客は、対象となる商品やブランドに対する執着が強く、ロイヤルカスタマーの割合が高いと言えるからです。
ごくまれに、クレームのためのクレームを言う、いわゆる「クレーマー」も存在します。その「クレーマー」に対する印象を引きずり、他のロイヤルカスタマーを失うような対応は、自ら宝物を捨てるようなものです。
これは、顧客対応窓口に寄せられる電話やメールと同じように、ソーシャルメディア上でも同様なのです。