はじめに|なぜ「推し活キャンペーン」は炎上しやすいのか
近年、企業コラボや公式施策として「推し活キャンペーン」が急増しています。
タレント、アーティスト、VTuber、キャラクターなどを軸にした参加型企画は、SNSとの相性も良く、高い拡散力と話題性を持つ施策として注目されています。
しかし一方で、本来は好意的なはずのファン参加型企画が、予想以上に荒れてしまうケースも少なくありません。
当落発表への不満、運営対応への批判、ファン同士の対立などが連鎖し、炎上状態へ発展する事例も見受けられます。
こうした事態が起きると、「一部の過激なファンが原因」と片付けられがちです。
しかし実務の現場を見ると、問題の本質はファン個人ではなく、キャンペーン設計や事務局の向き合い方にあることがほとんどです。
本記事では、推し活キャンペーン特有の構造を整理したうえで、事務局運営やSNS教育に潜む落とし穴について、実務目線で解説していきます。

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コミュニティ運営におけるエンゲージメント向上とKPI解説
第1章|推し活キャンペーンが「通常施策」と決定的に違う理由
1-1. 推し活は「参加」ではなく「感情投資」
推し活キャンペーンは、一般的な懸賞やプロモーション施策とは本質的に異なります。ファンにとって推し活とは、推しへの応援そのものだからです。
ファンが推し活キャンペーンに参加する際、そこには以下のような意識が含まれています。
・推しのために時間やお金、労力を使ってきたという想い
・継続的に応援してきた自分自身の存在証明
・推しや公式との「関係性」への期待
つまり、推し活キャンペーンは「当たるかどうか」以上に、自分の想いがどう扱われるかを問われる場になっています。
そのため、企業側が通常施策と同じ感覚で運営してしまうと、認識のズレが生じます。
・説明が簡素すぎる
・対応がテンプレート的
・感情への配慮が感じられない
こうした要素は、企業にとっては効率的な運用でも、ファンにとっては「軽んじられた」「想いを雑に扱われた」という印象につながりやすくなります。
推し活キャンペーンでは、ルールや対応のわずかなズレが、単なる不満ではなく、失望や不信感、裏切られたという強い感情に変わりやすい点が、通常施策との決定的な違いです。
1-2. ファン同士が可視化され、比較が起きやすい構造
推し活キャンペーンが荒れやすい背景には、SNS上でファン同士が可視化されやすい構造があります。
ハッシュタグ投稿、引用RP、リプライ欄などを通じて、以下のような情報が自然と目に入る環境が生まれます。
・誰がどれだけ投稿しているか
・誰が当選し、誰が落選したか
・公式から反応をもらっている人は誰か
この可視化によって、「結果」や「扱い」の差が強調され、不公平感や疑念が生まれやすくなります。
特に次の流れで問題が顕在化しやすくなります。
①個人が小さな違和感を抱く
②SNSに投稿する
③同じ違和感を持つファンが共感・引用する
④「これは個人の問題ではない」という空気が形成される
この段階で、不満は単なる感想ではなく、「みんなが感じている問題」「運営側の構造的な問題」として認識されるようになります。
推し活キャンペーンでは、この可視化 → 共感 →争点化のスピードが非常に速く、小さな設計ミスや説明不足が、一気に荒れへと転じる土壌が常に存在しています。
第2章|事務局運営に潜む3つの落とし穴
2-1. 通常キャンペーンと同じ設計で運営してしまう
推し活キャンペーンで特に多く見られるのが、通常の懸賞や販促キャンペーンと同じ発想で設計・運営してしまうケースです。
具体的には、以下のような状況に陥りがちです。
・抽選条件や選定基準が明確に言語化されていない
・判断プロセスがブラックボックス化している
・問い合わせに対してテンプレート文面で一律対応している
通常施策であれば、これらは大きな問題にならないこともあります。
しかし推し活においては、ファンは結果以上に過程の誠実さを重視します。
説明が不足している状態は、
・適当に選んでいるのではないか
・都合の良い運営をしているのではないか
・ファンの想いを軽視しているのではないか
といった疑念を生みやすくなります。
推し活キャンペーンでは、説明不足そのものが「不誠実」と受け取られやすく、結果として事務局への不信感を増幅させてしまう点が、大きな落とし穴です。
2-2. 「沈黙」が火種を拡大させる
炎上やトラブルを恐れるあまり、「検討中」「個別対応不可」として静観を選ぶ判断も少なくありません。しかし、推し活キャンペーンにおいて沈黙は、決して安全な選択肢ではなく、むしろ高リスクな対応です。
特に問題になりやすいのは、次のような場面です。
・当落結果の理由が一切説明されない
・投稿削除や注意喚起の背景が共有されない
・問題提起に対して公式が反応しない
こうした沈黙は、ファン側から見ると、「逃げている」「都合の悪いことには答えない」「ファンの声を無視している」と解釈されやすくなります。その結果、説明がないこと自体が新たな不満を生み、憶測や不信感がSNS上で膨らんでいきます。
推し活キャンペーンでは、沈黙は火消しではなく、火種を拡大させる行為になりやすい点が重要です。
2-3. 想定外の盛り上がりをリスクとして見ていない
推し活キャンペーンでは、想定を超える盛り上がりが起こることは珍しくありません。「予想以上に投稿が集まった」「想定より拡散された」といった状況は、一見すると成功の証のように見えますが、体制が追いついていなければ、一転して炎上の引き金になります。
具体的には、以下のような問題が発生します。
・投稿数の急増により、モデレーションが追いつかない
・対応スピードや判断基準にバラつきが出る
・明らかな問題投稿が放置され、不公平感が生まれる
ファンからすると、「なぜあの投稿は許されているのか」「対応基準が分からない」という疑念が生じます。盛り上がりを前提にした運営設計がない場合、事務局の対応は場当たり的になり、結果として信頼を損ねることになります。
推し活キャンペーンにおいては、盛り上がること自体がリスクになり得るという認識を持ち、初期段階から体制と判断基準を整えておくことが不可欠です。
第3章|SNSでの注意喚起が逆効果になる理由
3-1. 抽象的な「マナー啓発」で終わってしまう
推し活キャンペーンでは、「誹謗中傷はお控えください」「節度ある投稿をお願いします」といった、抽象的なマナー啓発が行われることが少なくありません。
しかし、このような注意喚起は、秩序を守るどころか、かえって混乱を招いてしまうケースがあります。
具体的なOK/NGラインが示されていないままでは、ファンそれぞれが独自の解釈で「何が問題なのか」を判断することになるからです。
その結果、「これはアウトだ」「これは問題ないはずだ」といった主張が飛び交い、ファン同士で互いを指摘し合う状況が生まれます。本来は事務局が担うべき線引きが共有されないことで、正義の押し付け合いが発生し、対立が激化していきます。
抽象的なマナー啓発は、ルールを守らせるためのものではなく、解釈の分裂を生む要因になりやすい点が大きな落とし穴です。
3-2. ファン心理を無視した「正論コミュニケーション」
運営側が「全員に平等に対応しています」「ルールに沿って判断しています」と説明することは、決して間違いではありません。
しかし推し活キャンペーンにおいては、その正しさが必ずしも納得につながらない場合があります。
ファンが重視しているのは、形式的な平等や規則の厳密さではなく、「どれだけ推しと向き合ってきたか」「どれだけ関わってきたか」という文脈です。
その文脈を無視したまま正論だけを提示すると、その説明は冷たく、機械的なものとして受け取られやすくなります。
結果として、「理解しようとしていない」「気持ちを分かっていない」という反発を招きます。
推し活キャンペーンでは、論理的に正しい説明であっても、感情と噛み合わなければ逆効果になることがあるのです。
3-3.注意喚起の対象が「ユーザー」だけになっている
SNSにおける注意喚起というと、どうしてもユーザー側のマナーや行動に焦点が当たりがちです。
しかし、実際には事務局や運用担当側の理解不足が、トラブルを拡大させてしまうケースも多く見られます。
推し活文化を十分に理解しないまま対応すると、善意で行った説明や注意喚起が、ファンの感情を逆なでする結果になりかねません。
重要なのは、ユーザーを教育すること以上に、運営側が推し活特有の感情構造やSNS上での反応の広がり方を理解することです。
内部で共通認識を持たないまま運営を続ければ、対応は場当たり的になり、信頼を失っていきます。
推し活キャンペーンにおけるSNSリテラシー教育は、まず運営側から始める必要があります。
第4章|荒れを防ぐために必要な視点と体制
4-1. 推し活キャンペーンは「感情を扱う施策」として設計する
推し活キャンペーンでは、ルール設計だけを整えても不十分です。なぜなら、ファンが反応しているのはルールそのものではなく、その裏側にある「どう扱われたと感じたか」という感情だからです。
そのため、推し活キャンペーンは、情報や条件を提示する施策ではなく、感情を扱う施策として設計する必要があります。
具体的には、次のような視点が欠かせません。
・なぜこのルールなのかを、事前に説明できるか
・想定外の反応が出たとき、どう説明するかを決めているか
・不満が出る前提で、説明責任を果たす導線が用意されているか
説明責任を前提に運営フローを組み込むことで、ファンの不満は「納得できない怒り」ではなく、「理解はできるが残念」という感情に変換されやすくなります。
感情設計とは、感情をコントロールすることではありません。感情が動くことを前提に、どう受け止め、どう返すかを設計することです。
4-2. 事務局運営・SNS教育・モニタリングの一体化
推し活キャンペーンでは、事務局運営、SNS教育、モニタリングを切り離して考えてはいけません。
これらが分断されていると、「運営は把握していない」「注意喚起が後手に回る」「現場判断がズレる」といった問題が起こりやすくなります。
重要なのは、実際に荒れる前の“兆候”を捉えることです。小さな違和感や不満の声は、必ずSNS上に現れます。その兆候を早期に検知し、事務局内で共有し、対応方針を即座にすり合わせる体制があれば、荒れる前に収束させることが可能です。
初動対応の速さは、対応の巧拙以上に、信頼できるかがその後を左右します。「見ている」「把握している」「向き合っている」という姿勢を早い段階で示せるかどうかが、明暗を分けます。
4-3. 「荒れない」ではなく「荒れても破綻しない」設計へ
推し活キャンペーンにおいて、荒れることをを完全に防ぐのは現実的ではありません。感情が強く動く施策である以上、一定の摩擦は避けられないからです。
重要なのは、荒れることをゼロにするのではなく、荒れたときにどう持ちこたえられるかです。
具体的には、
・事務局としての判断軸が一貫しているか
・説明を積み重ねる姿勢を崩していないか
・ファンとの信頼関係を守る行動が取れているか
といった点が問われます。
対応が場当たり的にならず、説明がぶれず、沈黙で逃げない体制があれば、一時的に荒れても、キャンペーン全体が破綻することはありません。
推し活キャンペーンに求められるのは、炎上を恐れて動かない姿勢ではなく、感情の揺れに耐えられる設計と対応力です。
まとめ|推し活キャンペーンを成功させるために
推し活キャンペーンは、単なる販促施策ではなく、企業とファンの関係性そのものが問われる場です。施策内容以上に、「どう向き合ったか」「どう扱われたと感じたか」が、強く記憶に残ります。
本記事で見てきた通り、推し活キャンペーンが荒れる原因は、一部のファンの行動ではありません。多くの場合、問題は設計や運営姿勢、そして説明のあり方にあります。
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推し活特有の感情構造を、通常キャンペーンと同じ感覚で扱ってしまうこと
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説明不足や沈黙によって、不信感を自ら増幅させてしまうこと
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善意の注意喚起や正論が、対立を生んでしまうこと
これらはすべて、事前に想定し、対策できる課題です。
だからこそ重要なのは、「荒れないこと」を目指すのではなく、荒れたとしても信頼を失わない設計と体制を持つことです。事務局運営、SNSでの注意喚起、モニタリングを分断せず、感情が動く前提で向き合う姿勢が求められます。
推し活施策は、ファンとの関係性を深めるチャンスにも、長く尾を引く不信を残すリスクにもなります。その分かれ目になるのは、話題性ではなく、感情を預かる覚悟と運営力です。推し活キャンペーンを成功させるためには、ファンを管理するのではなく、ファンの感情と誠実に向き合い続けることが不可欠なのです。
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