はじめに:炎上の背景にある“正義感”とは
かつてSNS上の炎上といえば、「クレーム」「過剰反応」といった形で、企業にとって一時的な風評リスクと捉えられてきました。しかし近年、炎上の構造が大きく変わりつつあります。
現在の炎上の多くは、「誰かを傷つけた」「社会的に不適切である」といった“正義感”に基づく指摘や糾弾から始まります。つまり、発信者や企業に悪意があるかどうかではなく、「受け手がどう感じたか」が論点となるのです。
最近の炎上事例に見る傾向
- ジェンダーに関する表現の不適切さ
例:「女の子はピンクが好き」といった固定観念の押し付けが性役割の押しつけと受け止められる - 身体的特徴への配慮欠如
例:体型や肌の色などに偏ったキャスティングが、多様性への理解不足として非難される事例 - 民族・文化的表現のステレオタイプ化
例:特定の民族衣装や言語表現を「ファッション的」に扱ったことで文化盗用とされるケース
こうした炎上は、単なるネガティブな反応ではなく、社会全体が価値観の更新を企業にも求めている兆候だと捉える必要があります。

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1. ポリティカル・コレクトネス(ポリコレ)とは?
炎上の背景には、「ポリティカル・コレクトネス(以下、ポリコレ)」の価値観が深く関わっています。ポリコレとは、特定の人種、性別、宗教、身体的特徴などに対する差別や偏見を避けるだけでなく、社会の多様性を尊重しようとする姿勢を意味します。
もともとはアメリカの市民権運動から広まった概念であり、今日ではさまざまな立場の人々が安心して暮らせる社会の実現に向けた、重要な社会的マナーとされています。
ポリコレの本来の意義
・誰かを排除しない社会をつくる姿勢
・自分たちの常識がすべてではないと気づく視点
企業活動においても、「炎上しないためにポリコレを意識する」のではなく、変化した価値観を前提に表現を見直す姿勢が求められる時代になっています。
特に、ちょっとした「配慮不足」が炎上の引き金になるケースは後を絶ちません。以下に、その典型例と実際の類似事例をご紹介します。
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炎上に発展しやすい「配慮不足」の典型例と具体例
- 広告コピーで特定の性別や年齢層を揶揄
例:ある大手企業が展開した「女性は○○していればいい」といった表現が、性別による役割の押し付けと受け取られ炎上 - デザインで身体的特徴や文化的背景を安易に象徴化
例:ファッションブランドの広告において、アジア系モデルに小道具として箸を持たせた演出が「ステレオタイプ的だ」として国際的に批判を浴びた - ユーザーを“その他”という曖昧なラベリングで分類
例:フォームの性別選択肢に「男性」「女性」「その他」とだけ記載したことで、「その他」とされる人々への配慮不足を指摘された事例
このような表現は、企業側に悪意がなくても、「自分は軽視されている」と感じたユーザー層の反発を招き、急速に拡散・炎上するリスクをはらんでいます。
2. キャンセルカルチャーと企業の関係性
ポリコレと深く関わるもう一つの概念が「キャンセルカルチャー(Cancel Culture)」です。これは問題ある言動をした個人・企業を社会的に“排除”する動きを指します。
炎上から「排除」へ:キャンセルカルチャーの流れ
SNS上の批判がボイコット運動、不買、取引停止といった実害を伴う形で企業に跳ね返ってくる——。これはもはや他人事ではなく、日々の広報・マーケティング施策でも起こり得るリスクです。
実際に見られた企業事例
- NIKE
社会的なメッセージを打ち出した広告キャンペーンで、強い支持を得る一方、一部からは「政治的すぎる」として不買運動が発生。 - ZARA
広告や商品デザインにおける文化的配慮の不足がSNS上で批判され、一部地域で不買運動や炎上が起こった。 - DHC
経営陣による発言内容が差別的と受け止められ、SNSで大きな批判が広がる中、複数のメディアがCM起用などの取引を中止。
これらは、一企業の表現や発信が「企業全体の価値観」と見なされる時代であることを示しています。単なる「誤解」では片付けられない広報リスクとして、すでに現場に押し寄せている問題です。
「謝罪すれば終わる」は通用しない
現在は、形だけの謝罪や声明では信頼は戻らない時代です。企業姿勢の本質的な見直しが求められているからこそ、「キャンセル」を防ぐには事前の配慮と事後の誠実な対応が不可欠です。
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3. “配慮のズレ”が生む誤解と炎上の温床
多くの炎上には、「良かれと思ってやった」行動や表現が誤解されるという、“配慮のズレ”があります。このズレの背景にあるのが「構造的偏見」です。
構造的偏見とは?
社会や組織に染み付いた、無意識の偏った視点のことです。悪意はなくとも、特定の層を“見えていない”ままにしてしまう構造が問題なのです。
- 広告モデルが痩せ型・白人中心
- 女性向け商品にピンクや花柄ばかり使う
- 障害者や高齢者がプロモーションに登場しない
これらは悪意なく作られていても、一部の層が“自分は存在していない”と感じる原因になります。
誤解・炎上を防ぐためにできること
- キャスティングの多様性確認
- 商品名やコピーの多角的レビュー
- 文化・宗教的背景への調査と配慮
意図がどうであれ、受け手にどう伝わるかを意識する姿勢が、ブランドへの信頼を支える鍵になります。
4. 企業はどう備えるべきか? 炎上対策の3ステップ
SNS発信や広告表現が思わぬ反発を招くこともある今、企業には「ミスを防ぐ」だけでなく、「起きる前提で備える」姿勢が求められています。ここでは、現場で実践しやすい3つの対策を、背景や事例とともに紹介します。
1. 社内ガイドラインの整備
チームや担当者ごとに判断基準が異なると、リスクを見逃しやすくなります。表現のチェック体制を全社で統一しておくことで、不要なトラブルを回避しやすくなります。
具体的な対策:
- ポリコレチェックリストの導入
例:「性別や年齢による固定観念が含まれていないか」など、確認項目をテンプレート化
→ 制作チームが主観に頼らず、一定の基準で表現を見直せるように - 広報・マーケ・法務による横断的なレビュー体制
例:マーケ案に対して法務がリスク確認、広報が発信の温度感をチェック
→ 一部門だけの判断では拾いきれない表現のリスクに対応できる - キャンペーンや商品公開前のレビュー会を定例化
例:商品名やコピーを関係者で共有し、表現上の懸念がないかを確認
→ 誰かの気づきが、炎上の未然防止につながるケースも
2. 外部目線による表現監査
社内では気づきにくい表現上の“偏り”や“誤解の余地”を第三者の視点で捉えることが、リスク発見の精度を高めます。
具体的な対策:
- 外部有識者や専門家による表現チェック
例:ジェンダーや文化表現に詳しい専門家によるコピー監査
→ 社内では気づけない多様な視点を取り入れる仕組みに - SNSモニタリングによる投稿反応の可視化
例:発信直後からSNS上の言及数やネガティブ反応をAIで検知
→ 拡大前の“違和感”を察知し、対応の判断材料にできる - ソーシャルリスニングによる兆候把握
例:「不快」「差別的」など特定ワードへの反応を定期チェック
→ 問題が顕在化する前に対処する機会を逃さない
3. 初動対応体制の構築
炎上の兆候を掴んだ時に、迅速かつ的確に対応できるかどうかで、その後のブランドイメージは大きく変わります。備えておくことで、“迷い”なく動けるようになります。
具体的な対策:
- 社内通報ルートと連携窓口の明確化
例:炎上の兆候を見つけた際に、誰がどこに報告するのかを定めておく
→ 現場がすぐにアクションを起こせるようにするための仕組み
- 判断と対応のフロー整備
例:「初期対応→公式見解の作成→投稿削除の可否判断」といった流れを文書化
→ トラブルが起きた際も、慌てずに対応できるようにしておく - 広報・法務・経営層による緊急対応体制の設置
例:週次での想定問答訓練や、過去事例の定期レビューを実施
→ 組織全体で価値観を共有し、対応のズレを防ぐ
「表現のリスク」はゼロにできませんが、準備の有無が“被害の大きさ”を左右する時代です。リスクを前提にした体制づくりが、企業の信頼を守る最良の防衛策になります。
まとめ:炎上を“避ける”ではなく“備える”時代へ
今や、SNSでの企業発信は“炎上するかしないか”ではなく、「どれだけ備えがあるか」が問われるフェーズです。
- 「意図していない」「昔は普通だった」は通用しない
- 表現ひとつが、企業の価値観を象徴する
- 多様な視点を組み込む体制が信頼を生む
ポリコレやキャンセルカルチャーはもはや“リスク”ではなく、“社会との共生を前提としたマナー”として捉えるべきです。
アディッシュは、10年以上にわたりオンラインコミュニティやSNSのモニタリングを通じて、企業のブランド価値を守る支援を行っています。
誹謗中傷や炎上への備え、ルール設計、投稿監視、ユーザー対応方針の整理など、数多くの課題に対応した実績とノウハウがあります。
・「そもそも規約をどう作ればいいかわからない」
・「投稿の監視が追いつかず、判断に困っている」
・「自社で体制をつくるのが難しい」
このようなお悩みがある方は、ぜひお気軽にご相談ください。

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